アダルトビデオ業界にみるリスクプレミアムの消失について

今日は新年最初の更新であり、当ブログにとって2012年の方向性を決めかねない重要なエントリーであるので、爽やかにアダルトビデオ(以下AV)の話をしようと思う。

最近のAV女優

最近ネット界隈では、いわゆるAV女優が綺麗すぎるというシンプルな事実がたびたび話題にのぼる。以下にその一例を示そう。
最近のAV女優レベル高すぎワロタ ※リンク先はエロ画像ではありません。

確かに上記リンク先で紹介されている女優陣はいずれも見目麗しきこと天女の如しであり、最近流行りの歌って踊れない、素人っぽさと大人数が売りの新時代的アイドルよりもよほどアイドル的ですらある。例えばAKBと恵比寿マスカッツのスナップ写真をそれぞれ用意して昭和の時代にタイムスリップし、この中でAV女優はどれかというクイズをしたら正当率はさぞ低かろうという何の意味もない無駄な妄想も、いささか現実味を帯びる。

そう。その昔AV女優といえば、一目みてそれとわかるAV女優臭さのようなものを放っていたものだった。桜樹ルイがいくら美人キャラであったとしても、それはあくまで"AV女優としては"という暗黙の前提の上にだけ成り立つお話だったわけで、別に例えば中山美穂と比べてどうかなどといったような野暮で無粋な議論をするものは存在しなかった。

それがいまや、AV特有の臭いが無くなっただけにとどまらず、あわや本家のアイドルをルックスで凌駕せんとする勢いであるというのだから、理由はともかくとして男性諸氏にとって喜ばしい事象であることは疑いようがなく、まさに豊食の時代ニッポンという様相なわけである。

AV出演と風評被害

さて。こうした現象について、私は端的にAV出演に伴うレピュテーショナルリスクプレミアムの消失という文脈において捉えることが可能ではないかと考えている。

つまり、その昔我々というかAV愛好家が支払っていた対価は、多分に女性がAV出演によって受けることになる又は受ける可能性のある風評被害に対する手当てを含むものであったところ、近年はこの風評被害に対する手当てが何らかの理由で不要になり、より多くの対価が女優の外見的美しさなどの直接的な価値に対して支払われているのではないかと思うのである。

もっとも、風評被害に対する手当てだろうが、外見的美しさへの対価でだろうが、受けとるのが出演女優であるという事実に変わりはないから、払う側からしてみれば何ら問題にはなり得ないわけで、即ちこれは、専ら女優側の心理的な変化を言い表しているに過ぎない。換言するならば、「家族や友人にばれたらマジでヤバイからそのくらいの金額じゃちょっとムリー」から、「まあバレたって死ぬ訳じゃないしそれだけの金額もらえるならまあアリー」に変わってきたということでしかない。

AV出演の事実が周囲に知られると本当にまずいことになるという場合、出演者は、出演時点において、会計上というか気持ち的に、合理的に予想される将来の損害を引当金として損失計上することになる。具体的に言うと、AVに出演したことによって将来の不安が増大するから、貯金を増やすということだ。増大する不安の度合いと積み立てる貯金の額との相関は個々人によって異なるだろうが、最悪の場合、引当金控除後の実質的な損益は、むしろマイナスとなる可能性すらあるだろう。

ちなみにAV出演による収支が実質的にマイナスとなる場合であっても、借金など目先の現金に窮した女性が出演する可能性はある。出演料は借金の返済に充てられ手元には残らないから、結果的には引当金の積立不足、言わば債務超過のような状況に陥るが、これはつまり将来の自分からの借金である。獰猛な借金取りからの借り換え先が将来の自分というのは、追い詰められた人にとっては決して悪い選択肢ではなかろう。

いずれにしても、見積もられる風評被害の額が増えれば利益が減るということは、逆に被害の見積もりが減ればAV女優にとっては出演による利益が実質的に増加することになる。経済学の原則から明らかな通り、利益の増大は新規参入を伴った供給量の増加をもたらし、競争の激化に通じる。競争激化の末、何となくあか抜けないルックスの女優は淘汰され、高い報酬に見合った価値(ルックスなり)を提供する女優だけが生き残る。いま、AV業界で起こっていることは要するにこういうことなのではないかだろうか。

レピュテーションリスクのライフサイクル

AV出演に伴うレピュテーションリスクは、なぜ低下したのか。

このことについて私は、AV業界に限らず、遍くレピュテーションリスクプレミアムというものはそういうものなのではないかと思っている。

例えば消費者金融。あれはもともと賤業だった。銀行マンが自らのプライドに阻まれて積極的に事業を展開できなかったというだけではなく、カネに困った人の足元を見て、自身は何ら労することもなく高い金利を貪るさまがいかにも金の亡者的に思われていたのだろう。そうすると、消費者金融業を営むにはレピュテーションのリスクがあるということになるが、大手資本というのはなかなかこのリスクはとらない。実際に風評が悪化した時の損害が大きいからだ。レピュテーションリスクマーケットのメインプレーヤーは、いつだって失うもののない弱小零細企業なのだ。武井保雄氏が一代で武富士を築くことができたのも、そういうカラクリだろう。ところが武富士がもはや中堅企業ですらなくなってくると、様子が変わってくる。儲けすぎだという批判を生むわけだ。いまや、消費者金融業界は突然の、しかも過去に遡っての上限金利規制によって壊滅的な打撃を受け、プレーヤーは一転して大手銀行資本に取って代わられた。

少し前、MSCBから派生した極端なダイリューションを生じせしめる、あわや有利発行かという如何わしい資本調達スキームが新興市場を中心に蔓延った際も、メインのプレーヤーは大手証券ではなく、当時日本では無名に近かった外資証券や正体不明のファンドが多かった。これもその利益の巨大さから参入が相次ぎ、終にはMSCB専業の証券会社まで出来る始末だったが、徐々に規制が整備され怪しさが濾過されると、旨味がなくなっていき、数えられる程度のプレーヤーが細々と食いつなげる程度の規模に落ち着いた感がある。

新しいビジネス、特に法的にグレーだったり倫理的に訝しかったりするものは、当初提供に際してのレピュテーションリスクが高いから、利鞘は大きくても大手は参入してこない。

これは、その昔AVに美人が参入してこなかったのとまったく同じだ。

ところが、ある程度プレーヤーが増えてくると、倫理的な線引きがなされはじめ、レピュテーションのリスクは下がり始める。何がセーフで、何がアウトが明確になれば、もうそこにリスクは存在しないわけで、当然プレミアムも発生しないこととなる。

レピュテーションのリスクがなくなった後にも大きな市場が残る場合もあれば、極めて小さい市場に落ち着いてしまう場合もあるが、これはそもそもの需要の規模の違いだろう。AVは、非常に堅固な顧客基盤を有するから、レピュテーションのリスクが低下しても価格は高止まりし、結果的に大資本(美人)の参入に繋がったということではないだろうか。


とまあ、ダラダラと書いてしまったが、前段「理由はともかく豊食の時代」の時点で重要な点については言い切った感があり、以降は蛇足であった。本年もよろしくお願いします。