君主論

君主論という、随分昔の人が書いたという本を読んだところ、『他人の武力または幸運によって得た君主権について』という章があり、内容的に「まさに安倍政権」とか思ったので、嬉々としてメモ。

まずはとりあえず、冒頭部分を引用。

単に幸運に恵まれたため私人から君主になった者は、君主になるにあたってはほとんど労苦を必要としない反面、それを維持するに際しては多くの困難に遭遇する。(中略)他人の好意によって君主の地位についた人々も同然である。(中略)このような人々は単にそれを与えてくれた人の意思と幸運とに依拠しているが、人間の意志と幸運は双方とも非常に変わりやすく、安定しないものである。

まさに安倍晋三。彼はたいした労苦も要せずに、ほぼ小泉純一郎の意思によって総理に就任した感があります。

他方、小泉さんは非常な労苦を伴って総理に就任した人です。派閥による民主主義が支配する自民党内において、国民の支持というまったく新しい切り口で、従来の権力をひっくり返したわけです。
そのため彼には大きな力があった。それが国民の支持であり、もっといえば国民を湧き立てそれを自分の支持につなげる手法です。郵政民営化自由主義も然り、北朝鮮拉致問題→ナショナリズムも然りです。だからもしものときは解散総選挙で民意を問うなどということも出来、長期にわたって権力を保持することが出来ました。まだまだ記憶に新しい、自民党が大勝した「郵政選挙」は、小泉さんの戦争だったわけで、小泉さんはここで大きく勝利することでさらに自身の権力を強大にしたわけです。
おそらく、小泉さんは自身が退くにあたって、この国民の支持を武器にするという新しい政治手法を承継できそうな相手として、あの若くてタカ派の安倍さんに目をつけたのでしょう。


しかし、盲点は安倍さんがその地位を保つ方法を知らなかった、ということでしょう。ただ、そんなもの通常普通の人間が知るわけもなく、自民党の派閥民主主義で勝ちあがってきた人か、もしくはその派閥を越えて力を得てきた人くらいでしょう。そんなこと知ってるのは。この点、『君主論』内においても、他人の武力または幸運によって得た君主権を保つには、非常な才知と能力を要すると論じられています。


具体的な記述を引用します。

敵によっておびやかされないこと、味方を獲得すること、力あるいは詐術によって勝利すること、民衆に愛されるとともに恐れられるようにすること、兵士に慕われるとともに畏敬されること、自らを攻撃できるかあるいは攻撃するに違いない者を絶滅すること、新しい制度によって旧制度を改めること、峻厳であるとともに親切であること、度量が大きく気前が良いこと、忠実でない軍隊を解体すること、新しい軍隊を組織すること、王や君主との友好関係を維持し、彼らが進んでこちらのために尽くすとともに攻撃の際には手心を加えるようにすること、これらは新しく君主となった者には必要不可欠と考えられる

うーん、、あてはまりませんね。ぼっちゃんには。小泉さんは安倍さんに民主党をうまく利用することが大事だと伝えたとどっかで聞きました。即ちそれはあのアホ民主党相手に勝利する(実際小泉さんは永田議員のメール捏造問題で完勝していい目をみている)ことで権力の基盤を構築することが可能である旨を示唆したものではないでしょうか。この辺の感覚はやはりさすがであり、それを活かせないほうもなんだかさすがです。ただ、前原さんから小沢さんになったのは少し運もなかったですかね。


とまあ、こんなようなことが全26章にわたって述べられている本で、なかなか面白かったです。

君主論 (講談社学術文庫)

君主論 (講談社学術文庫)