人権騒動の図式がようやく腑に落ちたという話

「人権」っていつから信仰の対象になったんだっけ? - 想像力はベッドルームと路上からを読んで。

ここでのid:inumashさんの切り口は、私にとってまさに絶妙で、一連の騒動がストンと腑に落ちた。

人権擁護派*1のかたがたが、「意味」を論じることなく、ひたすらにその「強度」を訴える姿勢に私も少なからず違和感を覚えていたからだ。


さらに上のエントリにおけるid:kyo_juさんの以下のコメントも大幅に私の理解を助けてくれた。ちょっと長いが実にわかりいいので全文を。

なるほど、人権が普遍的なのは自明だという主張を、「強度」でもって押し切ろうとしているという風に受け取られたわけですね。


勿論、通時的に見れば人権が決して普遍的(時代や地域にかかわらず同じ意味内容で存在したという意味で)だった訳ではないのは事実です。また、ある日突然憲法の人権条項にあるような諸権利が空から降ってきた訳ではなく、その実現がこれまでの政治的・思想的闘争の成果なのも確かです。


しかし、もともとそういう話をしているのではなかったと思います。今は、人権概念そのものを受け入れないと言っている人達と話をしているのではないからです。


人権概念自体は受け入れるそぶりを見せた上で、人権の適用範囲を縮小しようとしたり(ホームレスに人権はないとか)、人権を何かの対価として与えられるものであるかのように理解したがったり(労働や兵役などの義務を果たすから人権があるのだとか)、人権に基づいて何かを要求すること自体をリソースの有限性を根拠に自重しろよと言ってみたりする人たちに対して、いったい何を言えばいいか。
そういう場面で人権概念が成立した歴史的経緯を見直そうと言ってみても、ほらやっぱり人権なんて相対的なものじゃないかとか、所詮アメリカ人が1週間で書いた押しつけ憲法に書いてあるだけでしょとか、要するに人権を切り縮めようとする人達に餌を与えるだけになるのではないですかね?


そうした主張に対しては、人権の共時的な普遍性(人権という概念を受け入れる以上は、それは誰に対しても、どんな場面でも適用されねばならない。そうでない人権なんて、人権でも何でもない、ということ)を確認するしかないのではないかと思います。
それこそ、簡単に投げ出さないで何度でも。

人権擁護派による過剰に見えた反応は、人権と言う概念を後退させかねないバカバカしい作業に対して向けられていたものだったのである。そりゃちょっと待てと言いたくなる罠。


いま振り返って考えてみれば、そもそものエントリ
ホームレスに人権があるだなんてただの屁理屈だよ - よそ行きの妄想
で私が言いたかったのは、人権についてろくすっぽその意味も考えずにほんとにホームレスの人権が救えるの?ということだったのだが、これに対する反対意見としては、「煽り返し」の要素を除けば、おそらく、「なんでいまさらお前とそんな話をせにゃならんのだ、意味なんて学校で習ったろ?」ということだったのだろう。


このエントリの失敗はちょっと過度に釣りに偏りすぎたことと、知識が中途半端だったことによって、多くの方に、私がホームレスに人権がないと言おうとしているか、またはそれを正当化しようとしているのだと勘違いさせてしまったことだ。しかも途中からなんかガス室に送れとかいう、まさに願ってもない援軍まであらわれ、全体としてわけがわからなくなっていたことも否定できない。
私は別に人権が、過去の大衆による階級闘争によってついに勝ち取られた偉大な権利だと言うことは知っているし、万人にあたえられる概念であると言う定義こそがその肝だということも知っている。にもかかわらず、寄せられるコメントのうち、「バカだろお前幼稚園からやり直せ」という趣旨の多さにいささか煮え切らなさを感じていたわけである。
ここにきてようやくそれらが私に対して示唆していた事柄をなんとなく理解した。結局私は、自分が過剰に釣りに偏重したことによって必然的に生じた誤解から脱し切れていなかったわけだ。


ただ、だからといって、人権の「意味」を失わせてまで、その「強度」を高め、その「強度」に疑問を投げかけること自体をご法度にしてしまうことはどうなの、という問題意識は継続する。

人権の運用には、たぶんまだまだいろんな問題が残っていて、今後我々がやらなければならないのは、おそらくその意味を何度でも問い直し、より理想に近い運用の形態を探ることなんだろうと思う。別に私にはそれに生涯を掛けて取り組むような気概はないが、たぶん避けても通れない道だろう。


ああ。スッキリ。実に。


※追記
とかなんとか言ってたら、id:hokusyuさんから追撃が。id:kyo_juさん教えてくれてありがとう。
本当の本当に大切なことには、理由があってはいけない - 過ぎ去ろうとしない過去
実に本質的でおっしゃりたいことはよくわかった。一連の騒動で人権について書かれたもののなかではベストなエントリと思う。こういう考え方は必要。絶対必要。
上で書いた問題意識について考えるにも、間違いなく参考になると思う。いやあ実に勉強になりますなあ。

*1:この総称の仕方はおそらく適切ではないのだろうが、他にいい言葉を知らないので。