読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる


例えばアイヌ民族が日本から独立するなんてのはどうなんだろう

はてなダイアリー』を読んで。

差別の存在

同記事の著者である有村さんが、普段からはてブ等で、単に一覧性を高めたものをまとめと呼ぶことについてぶつぶつ文句を言っていたのは見ていたが、なるほどまとめとはこういうことだと思わせる良記事だった。

内容としてはつまり、アイヌ差別は厳然と存在するのだということだ。その論旨のひとつは、アイヌ差別をまったく認識しない層がいることこそ、同化政策があったことの証なのであり、それはつまり差別の帰結、最終形態に他ならないと。これについては有村さんのコメント原文を引用しておこう。

「同化政策」がいかに罪深い歴史であるか。denken氏の指摘する、アイヌ語を基にした漢字地名も当然、アイヌ固有の地名を奪うという文化弾圧なわけです。(略)人名については言うまでもないでしょう。アイヌが現在和人と同じような名前を持ち、和人と同じ言語で生活しているのは、明治以来の同化政策の結果であります。

はてなダイアリー

ごもっともである。意図的な同化政策なしに異なる民族が同化されるわけもないし、優越意識がないところに同化政策もクソもないアイヌの同化が差別の帰結だという話は説得力があると思った。

独立に向けての課題

ところで思うのは、現代の世の中において、異なる民族がこうして政治的にひとつに括られている状態には、なにかメリットがあるのだろうかということだ。

政治的には、とわざわざ限定したのは、経済的なメリットは認めるからだ。あまりにも国が小さいと、その国の通貨が安定しないリスクが高い。通貨の相対的価値とはつまり、国の信頼なのであって、アメリカや日本のような歴史もある大国と、できたばかりの小国では信頼感がまったく異なることは明らかで、国際的な市場でまともな交換レートを実現しようと思ったら相当な難儀が予想される。ちょっとしたきっかけで、すぐ通貨安やハイパーインフレに見舞われ、経済はがたがたになるだろう。

おそらく、少数民族が国家として独立することを考えるにあたって、この経済的な規模の問題は、常に大きな課題であろうと推察する。ただ、逆に言えば経済的な問題さえ解決するのであれば、国家の単位は細分化した方が、小回りもきくし、小さな政府も実現できそうだし、政策等をめぐって民族間で対立することもなくなる。何かと都合がいい気がするわけだ。

ヨーロッパの事例

ちょうど去年の今頃、大前研一氏が、コソボの独立の問題に絡め、以下のような見解を示している。興味深いので少し長めに引用する。

一つはスロベニアの独立が成功したことである。人口200万人しかいないスロベニア(首都・リュブリャナ)は独立したあとにハイパーインフレなどの苦渋を味わったが、ユーゴ北部の工業地帯でもあったために貿易は黒字に転じ、経済政策もしっかりしたものになって、いち早くEUに加盟し、続いて通貨もユーロに切り替えてしまった。いまでは新興EU加盟国の優等生といわれている。

つまり、もしEUに入れる可能性があるなら、そして「やがてはユーロ」ということになるのであれば、国の大きさは関係ない。(略)

だから、昔のように一定の大きさでないと国が経営できないという観念、そして最大公約数を取ることに伴うさまざまな(人種的、宗教的、政治的)妥協などするくらいだったら、まとまりのいい小単位で独立し、経済政策を充実させて外資を呼び込み、その勢いでEUに加盟しようというゴール(着地点)が見えるのである。

コソボに見る21世紀の国家の形 / SAFETY JAPAN [大前 研一氏] / 日経BP社

要するに、例えば『EUという大きな機構が経済的なセーフティネットとして機能』しさえすれば、政治的な単位は小さくても問題は少ないのではないかということだ(何らかの産業を興し、税収を確保する必要は当然あるが)。

そしてこの試みというか方針は、アジアでも有意義なものとなる可能性は高い。わが国の隣国は中華人民共和国という大国だが、チベットや台湾など火種には事欠かない。万が一のことがあれば戦争に発展することも十分に考えられるし、そうなれば日本だってさすがにタダではすまないだろう。これは何らかの対策を考えねばならない問題なのだ。

彼らの独立を考え、火種の解決策を講じるにあたっては、小国のための経済的なセーフティネットは必要不可欠なように思う。

日本の役割

いま東アジア諸国を眺めて、そうした経済的セーフティネットのようなものを構築するための音頭を取れそうな国は、経済の規模や、通貨の安定性、政局の安定性*1などを考慮すると、日本以外にはないだろう。

そういうことを考えると、このアイヌの問題などが民族の独立国家建設の動きなどにもしつながるのであれば、通貨統合や、セーフティネット構築のケーススタディというか下準備として実に価値のある事例になることは間違いない。

もしアイヌ側にそういった意向が少なからずあるとしたら、日本政府は上述したような方向性を検討してみてはいかがなのだろうか。

21世紀の国家観

大前研一氏は、上で引用した記事を次のように締めくくる

この新しい流れに、アジアや米国はいまだ気づいていない。19世紀的な国民国家の概念や、自由と民主主義という理念で他国を支配することはできない。
結局人々が求めているのは「豊かな生活+安全+安心」である。(略)
国家という19世紀の概念にしがみついているセルビアやロシア、つまりコソボ独立反対派は何をしているのか、ということになる。彼らもまたEUに負けない新しい概念を提供して勝負しない限りカネと労力の浪費を続けるだけ、というわたしの予想もまた同時に付け加えておきたい。

コソボに見る21世紀の国家の形 / SAFETY JAPAN [大前 研一氏] / 日経BP社

最近、世界的な不況を受け、日本経済は「内向き」に回帰するのだという意見をよくみかける。この姿勢こそ、大前研一氏の言う「19世紀の概念にしがみつ」く姿勢といえるのではないか。確かに共通の言語が存在している恩恵は大きいとはいえ、みんなもうちょっと頑張ればインチキくさい英語であればしゃべれるようになるはずだかもしれない。そんなつまらない問題に固執して、国民国家の概念にしがみつき、世界を見失うようなことでは、明るい未来はないように思えて仕方がない

案外現状は、日本が時代遅れの大国になるのかどうかの瀬戸際なのかもしれないとも思う。アイヌのような民族的な区別も然り、それこそ「オタク」とか「非モテ」とか文化的な区別に基づく単位でもどんどん細分化させてみてはどうなのだろうか。無論、経済的な統一は維持し、セーフティネットを完備することが前提で。

おわりに

ちょっと元記事とは全然関係ない話になってしまったが、民族間の差別という悲劇がなくなればよいと思っている。そのためにはひとりひとりの意識を、みたいな話も結構だが、構造的に解決する方向性も考えるには値するだろうと。『差別は価値観の相対性から生まれる』のだとしたら、価値観が無限に細分化していくことで差別意識をかなりごまかせるのではと思った次第。自信は、特にない。

ついでに

政治と経済の単位をずらすという話はこちらでしているのと同じ。つもり。
日本の需要不足を解消し、経済を回復させる<帝国主義> - よそ行きの妄想

追記(1/16)

id:kajuntkさんから以下のような有難いつっこみを頂戴したので追記。

そもそも経済自立が出来ない地域が独立だ自治だって出来るわけが無い。政治的視点だけではなく経済的視点も無い。流行で軽々しく語る人間が居ると過激なことを言って問題は悪化、アイヌは自滅する。

はてなブックマーク - はてなブックマーク - はてなブックマーク - 恨み辛み嫉みを昇華できないと差別は解消できないよ? - Automatons Hacking Guide

私は、アイヌの独立が対ロシアという日本における国防的な観点から極めて難しいという発想は確かにまったくなかったが、経済的な理由から十中八九無理であろうことは、しっかりとした検討はまったくしていないながら、感覚としては十分把握している。上の記事でも一応括弧書きで、『何らかの産業を興し、税収を確保する必要は当然あるが』としている*2。タイトルを「独立すべきだ」とか「独立できる」とかではなくて「独立するなんてのはどうなんだろう」としているのも何の検討もしていないため。

では何故そんな中途半端な記事を書いたかといえば、一応理由がある。二つ。

  1. 差別だどうだと言っている暇があったら、それこそ独立の路線などの「ではどうするのか」ということを検討すべき(そしてもし何の手立てもないなら平和裏に同化されたほうがよい)、ということ。
  2. ただ地方分権の流れと、アジアでユーロのような広域経済圏を実現する流れは接続できるものなのかもね、ということ。

これらを上の本文から読み取るのはおそらく不可能なので、これから見る人のためにも追記しておく。


ちなみに、言われてみればという話だが、証券会社の仕事って基本的にこういう無責任な空想を語るでもなく語って、相手をその気にさせてカネを出させる仕事だから、同氏による『さすが、証券マンは空想力豊かだなぁ!』*3という嫌味は、結構本質を突かれた気がした。。

*1:日本の政局もフーラフーラしているように見えるが、なにもいま始まったことではないし、そもそもタイや中国よりは幾分マシである。

*2:ただこれは町内会レベルの認識だそうだ。

*3:『[http://d.hatena.ne.jp/kajuntk/20090115/1231969067:title]』より引用。