「死亡債」ってこれそんなに筋悪かな

 ブルース・リー「死亡遊戯」オリジナル・サウンドトラック

米国で「死亡債」なる物騒なネーミングの投資商品が誕生したとかで、少し話題になっている様子。以下のような概要だそうだ。なにか非常に筋悪な商品かのように言われている雰囲気だけれども、そうでもないと思った。

景気低迷からいまだ立ち直りを見せていない米国では、これまでとは打って変わり節約志向が顕著となり金融市場への投資意欲も著しく減退している。 そのような中、一部の投資家に注目を集めているのが、「死亡債」(Death Bond)だ。 これはまだ生きてる人の生命保険を買い取り、それらを何千人単位でまとめて証券化したものだ。 

だった : 米金融界で注目され始めた「死亡債」 ・・・薄気味悪いと評されながらも市場拡大

つまり、被保険者の生命保険を買取会社が買い取ることで、従来であれば死ななければ受け取れなかった生命保険を、生前に受け取れるようにするというのが根幹のようだ。

需要としては、要するにカネがなくて困っているような人たちで、カネを借りたくても無担保では借りれないし、担保に供すべきまともな資産も持ち合わせないという場合に、生命保険を担保にカネが借りれるのだという理解で間違いはないと思う。ある程度割り引かれるとはいえ、自殺せずに生命保険が受け取れるのだから、そう悪い話でもあるまい。

不動産が値下がりして担保として機能しなくなったから、終に自らの生命に手をかけざるを得なくなったという話である。自然な流れとすら思う。

カネを貸す側としては、ただ単に少ないリスクで利回りがとれればいいだけの話で、将来の株価や地価の類に比べれば、死亡リスクは実に安定したものなので、利回りさえある程度確保できるのであれば比較的良い投資先だろう。経済的に困窮した層と商売をするのであれば、彼らはそれなりに逼迫しているであろうから、足元を見た金利を取っているのだろう*1から、市場が拡大しているというのも頷ける。


サブプライムローンの再来を案ずる声がなくもないようだが、それはちょっと証券化アレルギーとでも言うべきもので、杞憂に過ぎないと思う。

以前にも説明したが、例のサブプライムローンの問題は、土地の値上がりですべてを誤魔化しながら、証券化の万能感に酔いしれてキチガイみたいなレバレッジをかけていたところにある。

この「死亡債」とやらのリスクは人間の死亡リスクであり、不動産の価格変動リスクほどに見誤りやすいものではない。大勢の人が過剰にレバレッジをかけて突っ込んでいくほど、バブル的な機運を醸成することもないだろう。


まあただ、おそらく生命保険の受取額を、想定利回りを被保険者の平均余命で乗じたもので割り引いて買ってくるというだけの話だろうから、計算された平均余命よりも被保険者が早く死ぬとファンドに想定外の利益が舞い込むという構造になってしまっており、この点の倫理的な外道さが課題なんだろう。

とはいえ、そもそもリスクを細分化させるために証券化するわけだから、逆にたかだか何人かが早く死のうがあまりというかまったく利回りには関係ないというのが実際のところだろう。それこそ大規模な疫病でも流行れば話は変わってくるだろうが、だからといって投資銀行やファンドが利回り追求のために細菌兵器を頒布したりするかというと、さすがにそこまでのことはすまい(甘いだろうか?)。

むしろ、証券化の仕組みがあればこそ、個々人の生死と利回りが切り離されて、ようやくこういった形態の融資が可能になったということかもしれない。

*1:ある程度市場が成熟すれば、競争原理によって適正な金利になるのだろうけど、最初は借り手にとって厳しい状態が想予想される。