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勝間和代さんのような行動こそが真の経済学者にとっての本業なわけですよ

 断る力 (文春新書)*1

珍しくid:Midas閣下からご質問をいただいたので、返答がてらつらつらと書きます。ご質問は以下の通り。

ここに書いてある話はアンダーセンやモルガンに勤めてた人なら目をつぶってても判る常識、基本中の基本では?故に問題はむしろ何で彼女が己の評判を落とし過去を否定する様な話をわざわざしてるのか。なぜ?>id:chnpk

はてなブックマーク - 財)パタフィジック収集館ふくろう団地出張所 - 2009年11月10日

「ここ」というのは、私が書いた「マーケットから見た「リフレ派」の誤謬 - よそ行きの妄想」のことで、「彼女」というのは言わずと知れた「国家戦略室への提言「まず、デフレを止めよう~若年失業と財政再建の問題解決に向けて」 - 勝間和代公式ブログ: 私的なことがらを記録しよう!!」で物議を醸した勝間和代女史を指すわけですが、勝間さんの評判、落ちてるんですかね?どうなんでしょう。


私は、基本的に勝間さんが言ってるのはこういうことだと思ってます。

今の日本が不況であることの原因を知ってますか?あなたの給料が下がり続ける理由を知ってますか?そうです。全部日銀が悪いのです。これは陰謀です。ある必要な金融政策が実行されないことがすべての原因なのです。その政策とはNASAの最先端技術に基づく全米No.1の大ヒットスーパー脳科学に裏付けされた超勉強法で、成績の良い子はみんなやってます。さあ、みんなでリフレ派の旗印の下で愚民どもの間違った認識を正し、日本を正しい方向に導きましょう!

これはつまり、ターゲットは経済学者やマーケット関係者などのいわゆる専門家ではなく、我が国国民の半数以上を占めると言われる迷える哀れな子羊たちでしょう。

なんでそんなことをするかと言えば、広義の政治力のためだろうと思います。ファンを増やして本を売りたい(お布施)のか、はたまたほんとうに代議士先生になりたいのかは知りませんが、なんとなくそっち方向なのは間違いないでしょう。で、子羊たちを扇動することを考えると、とりあえずわかりやすい主張をかかげて、派手な行動を起こすことが目的に対して合理的だというだけのことではないでしょうか。とりあえず耳目を集めて興味を持ってもらえばそれでいいわけです。

「俺の邪悪なメモ」跡地」で紹介されてましたが、勝間さんが著書の内容を池田信夫先生にくだらないと批判された際に、池田信夫Blogのコメ欄に華麗に光臨して、以下のようなコメントを残していますね。

タイトルも内容も含めて、ある意味、確信犯的にやっています。意図は以下の通りです。
・自分よりも若年層を中心に、どんなにあざといタイトルでもいいから、本を手にとってもらうこと
・そして、本の内容をきっかけに、自分のアタマを使うことにひとつでも多く、目覚めてもらうこと
です。
なので、知識層が見ると不満に感じることも、あざとく感じることもあるのは承知の上での施策、戦略です。
オリジナルとは、既存のものをこれまでにない切り口で組み合わせても、それはオリジナルの一種だと理解をしています。

あなたの知的生産性を10倍上げる法 - 池田信夫 blog(旧館)

要するに合理性の原理主義者*2なんですね。ですからむしろ、勝間さんが万が一入閣するようなことがあっても、今般主張しているような政策をそのまま実行するような真似はしないと思います。単に大衆にウケることから、(権力を維持するために)結果を出すことに目的がシフトするわけですから。そのときはそのときで、きっとびっくりするくらい穏当な政策を選択するような感じがします。

リフレ政策とやらは、悪者を明確化(→日銀)するためそもそも庶民受けが良く、実際ネットではそれなりの人気を誇っていますから、勝間さんがなにか庶民を扇動して自身の政治的力に変えるための題材を探していたとすれば、さぞ魅力的だったのではと推察します。しかも、それなりにウケがいい割にはリフレ派にはキャラの立った旗振り役が不在なために、まるで真ん中にポツンと旗が放置されていたような状況でしたから、それを見た勝間さんが「ちょっと失礼しますよ」と真ん中に躍り出て、いきなり猛然と旗を振り始めたという感じですよね。私なんかは小物なので、こういう手腕を見るにつけ、大したものだなあと心底感心します。ですので冒頭述べたとおり、今回の件で勝間さんが評判を落としたという印象は私にはそれ程ありませんね。


そもそも、経済学というのはすべて、根本的な意味で学問ではなくて政治的な権力ゲームのツールなんですね。正解なんてないわけですから。根本的には政策採用される理論以外は何の意味も持たないと言っていい。野次馬隊長じゃなくて切込隊長が、今回の騒動を以下のように野次っています。

経済論争というものは神学と一緒で、神を見たものはいないという前提で進む部分があり、学問的な正しさよりも説得の力学で動くゲームに過ぎないということを、なぜ池田信夫氏ほどの賢い人が気づかないのでしょうか。

「池田信夫のデフレFAQはクズ」と言下に否定する学問貴族現る: やまもといちろうBLOG(ブログ)

これは実に的確だと思います。こうした意味においても、勝間さんのリフレ政策は内容はともかくとしても、操り方としては非常に高得点だと言えるのではないでしょうか。


ちなみにですが、面白いのは池田信夫先生も、過去に上で引用した切込隊長とまったく同じようなことを言っているところだったりします。

経済学は、自然科学のように真理を探究する学問ではない。それは応用科学にすぎず、政策として役に立たなければ何の価値もないのだ。国際ジャーナルに載せるためには、定理と証明という形で論文を書かなければならないが、これは茶道の作法みたいなものだ。その作法を守らないと家元に認めてもらえないので、ポスドクのころは一生懸命に論文を書くが、終身雇用ポストを得るとやめてしまう。そんな作法が生活の役に立たないことをみんな知っているからだ。

しかしインターネットは、そういう状況を変えつつある。2年も3年もかけて国際ジャーナルに載せるより、本当に大事な論文はディスカッションペーパーでウェブに出して、いろいろな人に引用してもらったほうが有利だ。そして、いくら数学的に優美でも、政策的に意味のない論文はウェブでは相手にされない。これは健全な傾向だ。ケインズも言ったように、経済学はジャーナリズムだからである。手前味噌をいわせてもらえば、当ブログのような「パンフレット」こそ経済学者の本業かもしれない。

パンフレットとしての『一般理論』 - 池田信夫 blog(旧館)

今般、真顔で勝間さんを批判してる人が書いたとはとても思えませんね!

追記

当記事に対するMidasさんからのフィードバック。

Midas そのとき←その時彼女の教えwを受けた大衆が彼女以上の合理性原理主義者になってたとしたら?君も勝間も大衆ナメすぎ/若年←自分よりバカを鞭打って金を巻上げてると公言する感覚(高慢と謙遜の取り違え)が正に金融屋

はてなブックマーク - 財)パタフィジック収集館ふくろう団地出張所 - 2009年11月11日

「君も」?
しまった。一緒にDISられてしまった!

*1:書影と本文は関係ありません。

*2:悪い意味ではないです。悪しからず。