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レバレッジド・ファイナンスとはなにか

先日、会社のカネで、某キングオブ米系投資銀行のMDの方が講師を勤める6時間にも及ぶセミナーに出席したので、その際に聞いた話にもうちょっとこう説明したらいいのにという私なりのエッセンスを多少加えて、以下に簡単にまとめることにする。

さて、レバレッジド・ファイナンスの定義について、適当に検索して出てきたサイトには次のようにある。

M&A(企業の合併・買収)の際に提供される、主として買収される企業のキャッシュフローに依拠したファイナンスのこと。
小さな力で大きなものを動かす「てこ(レバレッジ)」のように、少ない自己資金で大型買収を可能にする金融手法からこう呼ばれる。

ビジネスリーダー :日本経済新聞

ここまでの部分は、概ね正しい。レバレッジド・ファイナンスとは、つまりレバレッジド・バイアウトを行うに際しての資金調達のことで、いわゆるデット(=負債)ファイナンスの一種である。


では、レバレッジド・ファイナンスは、伝統的なローンと何が異なるのか。

上で紹介したサイトでは、「買収する側の企業の信用力を基に融資する伝統的なコーポレートファイナンスと違い、買収企業に対して買収される側の企業の信用力を基に融資するのが特徴」であると述べられているが、これでは、レバレッジド・ファイナンスとは単に「買収される側の企業の信用力を基に」した「伝統的なコーポレートファイナンス」ではないかとの指摘を免れないわけであって、与信の対象こそ旧来のものとは異なれど、与信時の考え方やその手法において目新しさはまったくないということになってしまう。これは残念ながら説明が不十分であると言わざるを得ない。

他のサイトでも似たようなもので、「【金融用語辞典とマネー学習講座】インフォバンク マネー百科」というサイトでは、「一般的に買収企業側の信用力で融資をするコーポレート・ファイナンスに比べて金利や手数料などが高めに設定され」ることが説明されているが、その理由についての言及はなく、意味不明な状態である。ただ「金利や手数料などが高め」なだけでは、誰も利用しないではないか。何故「金利や手数料などが高め」なのかという問いに、少なくともその「金利や手数料」を取る金融機関は答える必要がある。

さすがに、本邦金融機関によるレバレッジド・ファイナンスに対する理解はこの程度なのだとまでは言わないが、googleの検索結果上位がこのような有様であるということは、レバレッジド・ファイナンスという考え方はまだまだ一般的ではないということなのだろう。日本の金融業界は、欧米に比べて10年遅れているなどと言われることがあるが、そういう違いがこういうところにも出ているのかもしれない。


レバレッジド・ファイナンスを伝統的なファイナンス手法と比した場合、与信を行う際に検討するリスクの種類がそもそも違う。図にするとこうなる。

まず、従来のファイナンスにおいては、ファイナンスによって資金を調達する企業等の資産価値を裏づけとしてローンなどのデット・ファイナンスが、営業権(のれん)を裏づけとしてエクイティ(=資本)・ファイナンスがそれぞれなされていた。

資産価値と呼ぶものはつまり、その企業が有する土地や建物等の資産にかかる価値だ。そうした資産を裏づけとして(つまり担保にとって)貸付を行えば、企業が倒産した場合でもそうした資産の売却によって貸付金を回収できるというのが基本的なデット・ファイナンスの考え方である。一方で、営業権と呼ばれる価値は、またの名を超過収益力とも言い、企業が経営を継続していく過程において蓄積された、他企業にない優位的な取引関係や従業員の質、顧客のロイヤリティ(ブランド)など、現時点において測定しえない潜在的な価値を指す。潜在的な価値なので、当然顕在的な資産価値よりも換金できるリスクが高い*1。この部分を裏づけにして行われるファイナンスが、一般にエクイティ・ファイナンスと呼ばれることが多い。

従来のファイナンスでは、この二つは根本的にわかれていた。ローンは銀行で、エクイティ・ファイナンスはベンチャーキャピタルなどの範疇とされていたし、そもそも検討するリスクの種類がまったく違うので別々であることが必然だと思われていた。それぞれのプレーヤーがそれぞれが得意とするリスクの枠内で与信の検討をし、その範囲内で資金の提供を行っていたわけである。


ところが、近代のファイナンス理論を勉強したことのある人であればご存知の通り、最近は企業の価値を資産価値と営業権に分けるような考え方はあまりせず、その企業が将来創出するキャッシュフローを現在価値に割り引いたものの合計額が、それ即ち企業価値に相当するという考え方をする。

そして、端的に言えば、この企業価値を裏づけとして検討されるのが、レバレッジド・ファイナンスである。その企業が将来に渡って創出するであろうキャッシュフローの額を予想し、そのキャッシュフローで返済が可能な額を推定したうえで、貸付を行うのだ。

であるから、立場としてはエクイティ・ファイナンスに非常に近づくことになる。というか、いまやデット投資家とエクイティ投資家では期待する利回り(=リスク)こそ違うものの、検討する内容自体はほとんど同じになってきている。デットとエクイティの境界線は極めて曖昧になってきている*2のだ。

新しいファイナンス手法について注目すべき点は、ファイナンスをする企業なりが調達できる資金の総量が増えているということである。上の図にそって言えば、左の図において、ローンを拠出するデット投資家とエクイティ・ファイナンスを提供するエクイティ投資家との間にあった隔たりが、右の図ではデット投資家とエクイティ投資家がシームレスに協調することで、なくなっている。そしてその分調達できる資金の総量(図で言うと水色の部分の面積)が増えているという寸法である。

上で提示した疑問を思い出してみよう。何故「金利や手数料などが高め」なのか。それは、従来よりも多額の資金需要に応えることができるから「金利や手数料などが高め」なのである

従来は検討するリスクによってわかれていたデットとエクイティは、企業価値というひとつの大きな物語の下で一旦は一緒くたにされ、単に企業価値の源泉であるキャッシュフローを配分する順番によっていくつかの階層に分けられることになる。

10年で100のキャッシュフローを生み出す企業があるとすれば、最初の50を優先的に回収する人、その人が終われば次の30を回収する人、最後に残ったものを貰う人などに階層分けされる。当初の予定が狂い企業の収益力が衰え、10年間のキャッシュフローの総額が80に減ってしまったとしても、最初から2番目までの人は損をしないという仕組みが出来上がる。この階層のことをトランシェなどと言い、一番上のトランシェを”シニア”、二番目を”メザニン”、一番下を従来どおり”エクイティ”と呼んだりする。期待利回りはそれぞれ、5%、10%、20%くらいではないだろうか。

話を単純化して言うと、このメザニンと呼ばれるようなトランシェ*3は以前はなかったもので、これが新設された分、調達できる金額が増えたのだと考えていただいてよい。


ちなみに勘違いしてはならないのは、企業価値の前提たる将来キャッシュフローの予測は、従来以上にアナログに行われる必要があるということだ。企業の将来に渡っての事業リスクというものは、誰にも決して予想がつくものではなく、例えこれまでの100年間まったくキャッシュフローがぶれることがなかったとしても、それは来年激変する可能性をも否定するものではない。将来何があるかは誰にもわからないのだ。

であるから、将来キャッシュフローを予測するにあたっては、その事業が何故必要とされているのか、その企業が何故勝ち残っていけるのかなどを、かなり突き詰めて考える必要があるだろう。

この点を見誤ると、昨年バタバタと倒産したいくつかの米系投資銀行の二の舞になることになる。

参考文献等

*1:その企業が営業を継続することによってのみ、換金され得る。

*2:例えば、「転換社債」はデットかエクイティかなど。商品の設計によってどちら寄りにもなる。

*3:実務的には、メザニンの専門プレーヤーというのはあまり多くないので、シニアのトランシェBなどに変わられることも多い。