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「東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案」って、そんなに問題か?

掲題の改正案についてはてブやツイッターで、やれ反対だやれ署名だとあんまりにも騒々しいので少し調べてみた。

特に問題になっている(っぽい)部分について、東京都のホームページに掲載されていた現行の条例をもとに改正案を反映すると、改正後の条例は以下のようになるのだと思われる。

第7条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場興行場法(昭和23年法律第137号)第1条の興行場をいう。以下同じ。)を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。

一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの

二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの*1

要するに、本屋や映画館は青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるものを、青少年に対して販売したりしないように努めろ、と書いてある。

当たり前のことだと思うのは気のせいなのだろうか。

確かに、2項の「非実在青少年」という意味不明な言い回しに若干センセーショナルな香りを感じるものの、実在しようがしまいが、青少年が徒に性の対象になったり、または淫らな性生活を謳歌するようなコンテンツが氾濫すれば、当の青少年の倫理観や行動規範なりに宜しくない影響を及ぼすと考えるのはそんなに不自然なことだろうか。

例えば現状でもアダルトビデオやエロ本は、18歳以下の「青少年」の目になるべく触れないよう、ゾーニングされている。それと何か違うのだろうか。小学生がAV見てオナニーしてたら、さすがに将来を危ぶまないか?AVはさすがに極端だとしても、じゃあ息子や娘に「NANA」とか読ませたいか?変な影響を受けないかどうか心配にならないか?


反対派の方の意見に目をやると、例えば社会学者の宮台真司先生は、大真面目な感じで反対する趣旨の意見書をご自身のブログに掲載していらっしゃる。曰く、「非実在青少年の性行為や性体験を描写した表現によって、衝撃を受けたり、不快を感じたりする蓋然性については、受け取り方の個人差が大きい以上、表現規制ではなく、ゾーニング規制によって対処すべきであり、非実在青少年に関わる表現規制は不要である」とのこと。

こちらは「とりわけ非実在青少年に関わる非罰則規定(第七条 二)について」の意見らしいが、上に引用した条例は、果たして表現を規制するような趣旨のものなのだろうか。私には青少年の目になるべく触れないようにしようね程度(要はゾーニング)の意図しか汲み取れないのだが。どうもいまいちピンとこない。


運営の恣意性を危惧するというのは、わかる。何でもかんでも「不健全」呼ばわりされかねないというのは、それはその通りだと思う。

ただそれはあくまで運用の話なんであって、別に目くじらを立てて条例改正に反対するほどの話でもないような気もする。もともとある条例なわけだし*2

しかも条例の第3条には、「この条例の適用にあたつては、その本来の目的を逸脱して、これを濫用し、都民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」とも、「この条例の適用に当たつては、青少年の人権を尊重するとともに、青少年の身体的又は精神的な特性に配慮しなければならない」とも、ちゃんと書いてあるぞ。


「表現の自由」を守れ的な人権屋根性や、「健全」に関する一方的な価値観を押し付けるな的な無駄な反骨精神については語るに及ばず。


ということで、みなさんが何をそんなに盛り上がっているのかよくわからないという話。

追記

はてブにて、「運用の話というのが正に本題」とのご指摘あり。

本当かー?

上記で引用したのは改正後の条例だけれど、現行のものがどうなっているかと言うと、以下の通りになっている。

第七条 図書類の発行、販売又は貸付けを業とする者並びに映画等を主催する者及び興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条の興行場をいう。以下同じ。)を経営する者は、図書類又は映画等の内容が、青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある*3と認めるときは、相互に協力し、緊密な連絡の下に、当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない。

読み比べていただければわかるが、現行のものの方が抽象的である。「青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある」ものは全部ダメだと言っているわけだ。これに対して改正案は、非実在青少年を対象として描いたものも含むことをわざわざ注釈している格好だ。

一般的に考えて義務に関する規定が具体的なものになるということは、恣意性が介在する余地が減るということだ。もし本当に、東京都にありとあらゆるコンテンツを規制したい意図があるのであれば、私には現行法のほうがなお都合のよいものに見える。

恣意性が減少するタイミングで、恣意性を大きな問題として取り上げ、改正に反対するというチグハグな行動が、私にはまったく理解できない。

私の感覚だと、今回の改正はこれをきっかけに取り締まり強化すると言うよりも、具体的な事例を明記することによる抑止効果を狙ったものなのではないかと思うのだがどうだろうか。

追記2

再びはてブから。「NANAを18歳未満禁止なら大変」というが。

そんなに大変か?

NANA」に有害図書みたいなレッテルが貼られて、青少年の目に触れにくくなるということに、個人的に大きな問題を見いだせない。作者の方は10代の読者が減ると経済的に不利益を被るのだろうが。

まあそうはいっても読む人は読むわけで。繰り返すが、本屋などに販売したりしないように努めることを促す(努力義務)条例なわけだから、そこまで厳しいことにはなりようがないというのはひとつのポイントだろう。コンビニの定員が、店に置いてある有害図書を全部覚えたうえで、それを買いに来た客全員に身分証明書の提示を迫り、年齢を確認するといったような厳密な運用は、どう考えても不可能である。

逆にその程度の抑止であれば、あって然るべきと思うのは私だけだろうか。

追記3

三たび。「日本ではゾーニングが正しく機能しているとは言いがたいため,「成人指定」されると商業的には抹殺されたに等しくなる」らしい。

私の認識と違いすぎてよくわからないが、ゾーニングが正しく機能していないということはつまり、事実上どこでも買えるということなのではないの?実際コンビニでエロ本売ってるし、amazonでも警告付きでアダルトコンテンツを扱っていたはずだ。

まあ、「「成人指定」されると商業的には抹殺」されるというのが真実だとすれば、マーケットが大幅に縮小するわけだから、好ましくなく思う人が大勢いるのは理解可能。

商業的にペイする「成人むけ市場」を形成することが一つの解になるかもしれない」という指摘も、実に当を得たものに思える。

追記4

よく考えると「『成人指定』されると商業的には抹殺」されてしまう状況があるのであれば、本屋などの努力の仕方が間違っているということのような気がする。別に東京都としては青少年の目に触れないようにしろと言ってるだけなのであって、扱いをやめる必要はない。本屋などが扱いをやめなければ、「商業的には抹殺」されない。

面倒くさいから扱うのやめちゃえばよくね?という対応方針が背景にあるのでは。

追記5

成年指定の本も不健全図書指定されて廃刊した経緯がある」という指摘が。「「俺の邪悪なメモ」跡地」という記事でも同じような話が書いてあったので、たぶんそういうことなのだろう。

これは確かによくわからない点。

上のような事実があるのであれば、それは要するに成年指定よりも、不健全図書指定の方が厳しいということに他ならない。成年指定でやっていけていたものが、不健全図書指定で廃刊になるわけだから。

でも本文の条例をいくら読んでも、「当該図書類又は映画等を青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない」としか書いていない。青少年に販売するなというお達しであれば、普通の成年指定と同じ扱いにもかかわらず、何故そんなに不健全図書指定の効力が絶大なのか。

私が条例全部を読んでないからわからないだけか、なにか他のからくりがあるのか。ちなみに私の仮説は追記4に記したとおり、単に本屋などに不健全図書を販売するための運用が確立されていないだけ、というもの。

運用を見直し、改善すべきは、なにも不健全図書の指定に限った話ではないのでは。

*1:太字部分が改正箇所

*2:追記で補足した

*3:太字は改正される予定の箇所