人間の必死さが織りなすコント的なものについて

民主党が政権交代を果たしてしばらく経ったくらいからだろうか、私の政治に対する興味は急速に失われつつあり、最近はニュースもあまりチェックしないのだが、先週末くらいからあまりにも各方面が騒がしいので見てみると、なにやら鳩山元総理が、辞めるといっておきながら辞めない人はペテン師だの何だのと騒いでいる。何のことはない新手の自己紹介ネタかと思ったが、どうやら管総理のことを言っているらしい。

菅内閣に対する不信任案提出を巡って、一時は民主党内からも不信任案に賛成する意見が乱れ飛ぶなど、管総理は絶体絶命の危機に陥ったものの、時期が来たら自ら退くので不信任案賛成はちょっと待ってくれと話を持ちかけて、鳩山前総理との間でスピード合意し、苦し紛れの急場凌ぎで何とかその場をやり過ごすと、今度は一転辞めるとはいったがいつとは言ってないという子どもじみた詭弁を弄し、だらだらと政権に居座る姿勢を見せはじめ、ようやく騙されたと感づいた鳩山前総理がペテン師だと叫んでいるということのようだ。さらに言えば、いつも通り裏で糸を引いているつもりでいた小沢元幹事長は、管・鳩山合意のあたりから話を聞かされていなかったらしく、どういうことだと怒っているというのだから、いよいよわけがわからず、ただのコントと評さざるを得ない状況に陥ってる。


ところで、ペテン師オチのリアルコントで思い出したが、何年か前にある非上場企業の株主総会に出席した時も非常に完成度の高いコントを拝むことができた。

その株主総会は、議案からしてそもそもコントの設定じみているわけだが、確か創業者の背任だか横領だかが発覚したから、その会社の事業を創業者以外の役員が用意した新会社に引き継がせ、その会社自体は清算するという話であった。割を食うのは株主で、払い込んだ資本は創業者に使い込まれるわ、新会社の株式は持てないわで散々な目に合うことが約束されており、株主総会が紛糾することは疑いようがなかった。

よって他人の揉め事が大好きな私としては、期待に胸を膨らませながら株主総会の会場に向かったわけであるが、果たしてその株主総会は期待に違わぬものであったのである。

会場には数十人の株主がいたと思う。非上場会社の株主総会としてはかなりの規模である。その中でも明らかに異彩を放つグループがあったので気になって会社関係者に聞くと、どうやら創業者の関係者だそうで、予め当該株主総会の議案には反対の意思表示をしているということだった。要するに株主総会の運営を妨げ、議案の成立を防ぐ目的で会場に来ているわけで、言うなれば一種の総会屋なのだが、そのグループが特殊だったのは、何故かメンバーがおばさんばかりだった点だ。総会屋と言えば強面の男性という既成概念に捉われていた私には、なかなかのアハ体験だった。

さて、議長が定刻を告げ株主総会がはじまると、さっそく飛び出したのは議長解任動議である。議長は普通定款の定めに従って社長が務めるものだが、お前では信用ならんからおれに議長をやらせろというのが、議長解任動議である。ただ、この動議なるものは立派な名前がついている割には株主総会の運営側としては特別取り合わなくてはならない理由はないという代物で、基本的には単に無視されるだけの相撲で言えば”猫だまし”のような奇手である。

議長解任動議は事前に想定された範囲だったのだろう。議長はそれをセオリー通りに落ち着いて無視すると、株主総会を進行していった。議案説明の合間合間に挟まれる創業者の悪事に関する述懐はどこか情緒的で涙を誘う。自分たちも株主のみなさまと同じで被害者なのだ、もう会社は清算するしかないのだと繰り返し語られる。このあたりは、まあ普通だったと思う。

会社側の言い分がひととおり語られると、ついに質疑応答からの採決である。資本を拠出していたベンチャーキャピタルなどからいくつか真面目な質問が出た後、真打ちは登場した。異彩を放つ総会屋崩れ集団の親玉らしき人物が語り始めたのだ。メモ片手に語られた内容は、なにやら新経営陣が事業を引き継ぐ際に支払う対価は不当に安いとか、株主総会の招集手続きが適法になされていないとか、確かそんな感じであったと思う。いや実をいうと内容はほとんど覚えていない。親玉が何か喋るたび、一味のおばさんたちがいちいち野次というか合いの手をいれてくるのだが、総会屋というよりむしろ商店街の祭りの打ち上げみたいで、想像されるおばさんたちのセルフイメージとアウトプットされているもののギャップが激しすぎて、私は笑いを堪えるのに必死だったのである。

まったく緊迫感のない野次に耳を傾けながら、なぜ今日あのメンツが集まってしまったのか、突然欠員が相次いでしまったから最寄駅で急きょ募集したのだろうかなどと、奇妙な総会屋集団に関する思索にひとりふけっていると、それまで会場の後ろの方でじっと息をひそめていた別のおばさんが突然立ち上がって叫んだ。「ペテン師!ペテン師吉田!!」まさかの急展開である。

突然の出来事に一瞬呆気にとられたが、その後話を聞いてみると、どうやらその創業者の関係者成る人物に、その会社の株を売るなどと言われ、カネをだまし取られたのだそうだ。要するに、ただの未公開株詐欺事件だった。

ペテン師吉田は、詐欺の負い目がありながら何のためにノコノコ株主総会に出てきたのかよくわからないし、仲間がおばさんばかりになってしまった理由も結局わからず仕舞いである。突然叫んだ詐欺被害者のおばさんも、なぜあんなにもドラマティックでセンセーショナルな手法で詐欺を明るみに出す必要があったのか、今となってはよくわからない。ただみんな、何かを必死に考えた結果、ああゆう行動になったということなのだろう。

で、私の感想としては、申し訳ないが大変面白かった。

思うに、必死さと可笑しさというのは紙一重なのである。人間は必死になればなるほど笑いを誘うもので、既に万策尽きた感溢れる民主党も、そういう意味で良質のコント題材であることはある種の必然なのだろう。ちきりんさんが指摘する通り民主党の先生方は、次の選挙までになるべくポストを回さなくてはならないわけだから、みんな必死なのだ。


ということで何の話かはよくわからないが、とにかく民主党政権、飽きのこない政権である。

政治がぐっと身近になった気がする。卑近とも言うが。