大老害時代を生き抜くための天下三分のTIPS

御手洗冨士夫キヤノン流現場主義老害王に、俺はなるッ!

ということで、御手洗冨士夫キヤノン会長が、御年76歳にして同社社長に返り咲いた件である。

時事ドットコム

そのとき私はたまたまtwitterを眺めていたが、 上記事案が公表された途端、 TLは瞬時に凍りつき、その後すぐに苦笑混じりの今更感で溢れかえった。

一時、いや待てと、きっとなにか特別な事情があるのだと、まだ慌てるような時間じゃないと、新しいスターの誕生だとはやし立てようとするtwittererを諌める動きも一部にあったが、日経新聞によれば、どうやら御手洗氏自身が「世代交代を急ぐよりベテランの力を結集」すべしと語り、社長復帰を志願したとある。何の事情もなかった。あの歳で何たる意欲か。

ここは嘘でも、急な辞任のため他に適任がおらずとか、一時的に会長が社長を兼ねるとか言って欲しかったが、会社側の見解は「難局はベテランの力でしか乗り切れない」という摩訶不思議なものであった。そうなのか?

常識で考えて、上の世代がいつまでも退かないと、人材育成の効率は悪化する。キヤノン勤務の40代は、70代も後半に差し掛かってようやくベテランという事実について、一体どう思っているのだろうか。このどこまでも果てしなく続くかに見える出世の冒険に心底ワクワクできているようなら、老害王の素質ありだろう。普通は、ゲンナリするところだ。

加えて、更に悪いことに、長期政権は不正の温床となりやすい。同じ体制がいつまでも続くと、組織の風通しは悪化し、不正が明るみに出るオケーションは減少するからだ。オリンパスの不正があそこまで長きにわたって隠匿され続けてきた背景に、退任する社長が後継の社長を指名することで、世代交代を経ても事実上の権力が移譲されずに維持されてきた構造があることは、言うまでもなかろう。

日本社会の中心は老人寄りに大きく移動

いま、老人たちの力は、かつてないほどに強まっている。

もともと老人には、若者にはない特別な含蓄や神通力があった。多くの場合それは、視力や聴力、更には記憶力までもが衰え、外部からの余計なインプットが遮断されたがゆえの内面回帰、独善的振舞いに端を発する諸症状なわけであるが、まあ亀の甲より年の功という言葉もある。

若者たちは、こうした未知の力を備えた老人たちのミコトノリを表面上奉ることによって、適切な距離感を構築してきた。インプットの絶えた人の言うことをいつまでも真に受けるわけにも行かないが、彼らの経験にまったく理がないわけでもない。相談役や顧問に代表されるようなあまりオフィシャルではない名誉職として、 現場からは一歩退いてもらったうえで、 独り言に限りなく近い形でご高説を発信していただくことが、双方にとってベストな関係なのであり、世の中の平和は、そうして保たれていたはずだった。

ところが、いま、このバランスが崩れてきている。理由は今さら私が指摘する必要もなかろうが、少子高齢化である。医療の進歩によって平均寿命がグングン伸びる一方で、若者の晩婚化や、教育費の高騰などで出生率は低下の一途を辿っている。国内全人口に占める老人の割合は、ほんの十数年前まで10%台だったものが、いまでは倍以上になっている。そしてさらに十数年後には40%に達すると言われている。

老人たちが数的な面でも勢いを得たいま、彼らを現場から一歩退かせることは容易ならざることとなった。なぜなら、老人がマジョリティであれば、もう老人がいる場所こそが「現場」に他ならないのだから。仮にコミュニティから老人を追い出したところで、追い出された老人たちは新たなコミュニティをつくり、それはいずれ巨大に成長するだろう。そうなっては、どちらが追い出した側かもうわからない。結局勝てば官軍なのであり、数的マジョリティを得たものが、最終的には正義の名を冠するわけである。

緊迫する社会

老人特有の不思議な力を操って世に害をなす輩を老害と呼ぶが、その勢力はとどまるところを知らず、現役世代を押しのけては数々の要職を手中に収めている。

これは非常に危険な兆候だろう。

いま巷の若いヤングを中心に、発行部数日本記録を更新し続けるほど大ヒットしている漫画カルチャーと言えば「ワンピース」だが、今起こっている老害たちによる勢力拡大のダイナミックさは、ワンピースにおける海賊たちのそれを想起させる。

ワンピースでは、伝説の海賊王が遺したとされる秘宝「ワンピース」を目指して猫も杓子も海賊になるという、読んで字の如しの大海賊時代が描かれる。なかでも秘宝「ワンピース」にもっとも近いとされる「新世界」に君臨する「四皇」と言われるトップ海賊率いる大海賊団にいたっては、一国の軍事力を軽く上回り、リアル世界で言うところの国連軍のようなものと互角に渡り歩く。ソマリアの強奪集団とはスケールが違うのである。

いま、現実社会の老人たちも続々と新世界へと歩を進め、その勢力を拡大させている。

筆頭はやはり、ナベツネこと渡辺恒雄氏だろう。先日、飼い犬の清武犬に突然噛み付かれ、周囲に世代交代時期の到来を予感させたが、その清武犬を即効で保健所送りにすると、返す刀でなぜか新聞を無税にしろと主張しはじめ、健在ぶりをアピールした。妻が参院選に出馬する際をはじめ、何か新しいことを始めるときはナベツネに挨拶をしなければならないというのはもはや風物詩を超えた不文律だが、同氏の憎まれっ子ぶりを鑑みるにあと150年くらいは余裕で世にはばかるものと思われ、若者の将来展望に影を落とすとともに、消費意欲の重しとなっている。

次いで石原慎太郎氏。「震災は天罰」といったまさに神の視点から繰り広げられる全方位DIS体制を敷きつつ、齢80にして東京都知事選まさかの四選を果たすという、まさに石原無双状態。このエントリーを書いている最中にも、噂の石原新党の基本コンセプトに関するニュースが舞い込んできたが、その基本コンセプトは、「反グローバリズム」「国軍保持」「平成版教育勅語」という、まさに猪・鹿・蝶三拍子そろった必殺極右コンボであった。老いは人を右傾化させるのだろうか。また、近年は天上天下唯我独尊ぶりにも更に磨きがかかり、歯に絹着せぬ物言いとよく形容される差別発言も年々研ぎ澄まされ、老人力のますますの充実を感じさせている。

森元首相こと森喜朗氏は、最近特に目立ったエピソードはないが、見た目だけでかなりの老害力を感じさせる逸材だ。確か同氏の自叙伝のようなものに記述があったと記憶しているが、出身大学である早大の入試では、確かラグビー推薦だからという理由で名前しか書かずに入学したらしい(うろ覚え、要出典)。こういう話は、普通真実だとしても隠しておくのが礼儀という気もするが、さも武勇伝のように語る様が実に"らしい"。若いときから高い老人力をいかんなく発揮していたようで、言わば老害界のスーパーエリートだ。この御方が毎回衆議院選挙で圧勝できるカラクリが私にはさっぱりわからないが、地元の方にしかわからない素晴らしい魅力があるのだろう。

そして今回、冒頭ご紹介した、尋常ならざる意欲で我が国が誇る優良国際企業キヤノンの社長に返り咲いた御手洗氏を新たに加え、彼らはさながら、現実社会における四皇だ。

もしナベツネと石原が本気で競り合ったら、マリンフォードくらいはゆうに消し飛んでしまうだろう。

第三勢力の形成へ

こうした状況を受け、強い危機感を募らせた一部の若者の中からは、老人どもから選挙権を奪えなどの強行策も聞こえてくる。

ただ、それはおそらく逆効果だろう。全面戦争は甚大な被害を生むし、そもそも数的有利を頼めない若者には勝ち目がない。目指すべきは老人勢力の内部ゲヴァルト、大勢力を分裂させることによる新しいバランスの形成だ。

ワンピースの世界観が優れている理由のひとつに、王下七武海の存在があげられよう。王下七武海とは、海賊でありながらその活動について政府からお墨付きを得る代わりに、政府と海賊が衝突した場合など、有事の際における政府への協力を言い渡された海賊のことだ。他の普通の海賊からすれば政府の犬にほかならないわけだが、七武海は七武海で、彼らの利益のために政府を利用している側面が強い。その実力は四皇には僅かに及ばないものの、かなり高い。

この図式を現実世界でも応用しない手はなかろう。老害老害でも、さほど浮世離れしておらず、むしろ俗っぽく、小銭やポピュリズムに釣られやすそうな老害たちを若者側に歩み寄らせ、それを持って第三の勢力とするのである。こうした、それこそ老獪な立ち回りこそが、いま若者に求められている。


名づけて、老化七武海。

さっそく人選に移ろう。

みのもんた氏、和田アキ子氏、古舘伊知郎氏あたりは、どうしようもない見識をお茶の間に届ける頻度といい、その偏り方といい、老人力は確実に及第点といえる。特にみのもんた氏は、ババアを意のままに操る能力を備えており、貴重な戦力になるだろう。一方、特に和田アキ子氏あたり、焼け野原みたいな自身のCDセールスを少なからず気にしていると思われるから、少しCDを買ってやればAKBよりも簡単に手なずけることが可能だろうと推察する。

お笑い芸人からは、芸人であることを忘れ、安い感動を振りまくことに必死な欽ちゃんこと萩本欽一氏が筆頭候補だろうか。彼の欲するものはイマイチよくわからないが、あの変な野球団の動きを見るに、若い子たちにチヤホヤされるのは嫌いではないのだろう。

経済界からは、経団連の黒ひげ、マーシャル・D・ティーチこと三木谷浩史氏を推挙したい。同氏はまだ若く、年齢的には老害とは呼べないが、DeNAによるプロ野球参入問題のときに、こどもへの悪影響を理由に一人いつまでも強行に反対を唱えていた様はお前が言うな感に溢れており、老人力全開の様相であったので、今後に期待できる老害ルーキーと言える。

紅一点として、デヴィ夫人はいかがだろうか。一体何が彼女の権威を担保しているのかよくわからないが、とにかく優雅で偉そうだ。タイトル通り偏見に溢れた夫人のブログは、ときおり唐突にこちらがビックリするような内輪話を暴露して注目を集めている。バラエティ番組の出演も比較的積極的で、ふかわりょうと嬉しそうに絡むさまが印象的だ。きっと若い人が嫌いではないのだろう。

あとひとり。できれば政治家がいいと思うが、政治家は真性の老害が多く、取り付く島がない印象がある。強いて言えば鳩山由紀夫は与しやすそうだが、戦力になるかどうか、極めて疑わしい。


まあいろいろと人選には異論があろうが、彼らのような存在こそが日本社会を平和へと導くためのキーなのである、と無理矢理いい話っぽく締めようと思ったがどう見てもただの悪口です。本当にありがとうございました。