消費者庁によるコンプガチャ規制はソーシャルゲーム終了のお知らせか

我が家のPS3をリニューアルしたこともあり、何気なくHuluを眺めていたらいつの間にかうっかり「24」を見始めてしまい、連休の半分が一瞬で失われたので「あーあ」とか思っていたところ、何やら興味深いニュースが急きょ舞い込んできたので、リハビリのつもりでブログを書いてみる。

お知らせ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

当ブログでは再三申し上げている通り、私はソーシャルゲーム界隈に何らの利害もなく、プレイさえしていないので、それこそあの業界があってもなくても本当にどうでもいいのだけれど、まだ新しく未成熟な割にカネの動きだけはやたら派手という、近年の日本では珍しいあの業界についに当局のメスが入ったと聞いては、野次馬根性を大開放せざるを得ないわけである。

コンプガチャは違法か

ということで記事内容だ。記事によると、満を持して登場した消費者庁が、いわゆるコンプガチャについて、景品表示法違反との見解を近く公表する見通しとのことである。

コンプガチャはお分かりだろうか。ドリランドや何やという有名どころのカードバトルを模したソーシャルゲームでは、ゲームで利用するカードを入手する際に、300円を投じると何らかのカードが入手できるという現実のおもちゃ売り場におけるカードダスやガチャガチャのような、「ガチャ」と呼ばれる仕組みが用いられる。「コンプガチャ」は、ガチャによって特定のカードをすべて集めた(コンプリートした)際に、より希少なカードを獲得できるとする仕掛けのことだ。

このコンプガチャ景品表示法に違反するとのことなので、多少疑いの念を抱きつつも、さっそく景品表示法なるものを確認してみたのだが、これがまた本当にしっかり違反していて実に面白いのである。

同法における景品類の定義は、概ね以下の通りだ。

  1. 「顧客を誘引するための手段」として、
  2. 「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に付随」して
  3. 「相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益」

ここまでは何の問題もない。確かにコンプガチャの仕掛けは、プレイヤーがガチャを行うことを「誘引するための手段」であり、それにより配布されるレアカードは「物品」ではないものの何らかの「経済上の利益」であることは疑いようがないから、コンプガチャにおけるレアカードが景品類に該当することは間違いない。しかしながら、この法律は景品類を一切禁じるものではない。当たり前だ。ヤマザキ春のパン祭りを引き合いに出すまでもなく、世に景品類は氾濫している。

同法は、「必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる」と言っている。このあたりが肝だ。要するに程度の問題ということであり、線引きが問題になる話ということだ。

このあたり、線引きの問題を確認するには、法律そのものではなくて告示にあたる必要がある。「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」において、景品類の制限について概ね次のとおり定められている。

  1. 懸賞により提供する景品類の最高額は、取引価額の二十倍(だたし最大10万円)を超えてはならない
  2. 懸賞により提供する景品類の総額が、取引の予定総額の2%を超えてはならない。
  3. 一定地域における事業者相当多数が共同して行う場合などは、例外的に、景品類の最高額を30万円を超えない額、景品類の総額を取引の予定総額の3%まで拡大することができる。
  4. 2以上の種類の文字、絵、符号等のうち、異なる種類の組合せを提示させる方法を用いた懸賞による景品類の提供は金額の多寡によらず一切禁止

上記を読めばわかるだろうが、コンプガチャは4に違反する。私は全然知らなかったが、絵合わせによる懸賞は一切禁止だったのである。

だから例えば、何度も引き合いに出して申し訳ないが、ヤマザキ春のパン祭りが、単にシールを集めて応募するという話ではなくて、複数種類あるシールをすべて揃えなければならず、かつそのシールの種類が商品購入時に選択できない場合は、同法の違反になるというわけだ。

コンプガチャは、誰がどう見ても、2以上のカードについての「コンプリート」という組み合わせを条件に、景品としてのレアカードを提供している。一切禁止なのに。何という真っ黒だろうか。GREEやDeNAに法務部門はないのか。どこかに解釈の問題が入り込む余地があるのなら教えてほしいくらいである。

ちなみに、同法に違反する行為があった場合、内閣総理大臣はその行為をしている事業者に対し差止めを命ずることができる。さっさとしてはいかがか。

ガチャ自体は違法か

ただ、一方で今回の景品表示法適用を過剰に大袈裟なものとしてとらえる向きも少なくないように感じているので、その点については少し釘を刺しておいてもいいのかもしれないとは思っている。つい先日、ソーシャルゲームを規制すべきか否かみたいなべき論を打ち出していたところ、このように議論の余地のない見解が公表されて少し恥ずかしいので、行き過ぎた解釈をディスることで自分内バランスを整えようという魂胆もある。お付合い願いたい。

私も当初、上記告示を確認した時に勘違いしそうになったのだけれど、今回の件は、上記告示における4への該当を示唆するものであり、1ではない。この違いは大変重要である。

1に該当するということになった場合、その判断はコンプガチャの景品たるレアカードが10万円以上の価値を有しているという解釈を含むものだからだ。

もし、一部のレアカード「だけ」が10万円以上の価値を持つという解釈が認められると、コンプガチャだけでなくてそもそもガチャ自体が景品表示法に違反する可能性が高くなってくる。当たれば10万円外れれば紙屑というのは、上記告示の運用基準に例示されるところの「すべての商品に景品類を添付するが、その価額に差等があり、購入の際には相手方がその価額を判別できないようにしておく方法」に他ならない。

この点、現状はどのような解釈がなされているかと言うと、レアカードだろうがノーマルカードだろうが本質的には同じもの(ある固有のゲームで使うカードであり、そのゲームで勝つか負けるかくらいの差しかない)であり、それらを一律300円で売っているという解釈である。300円払うと、カードが購入できる。カードが財産かサービスかは一旦置いておいて、実に単純な商取引である。

RMTが存在するのだから、一律300円という理屈はおかしいと主張する人もいるだろうが、基本的にああいうセカンダリーマーケットというのは、商品の価値の本質を規定するものではない。たまたまレアさ加減がウケて高額で取引されるに至った昔の切手などが、過去に遡って本質的な価値上昇を認められるかというと、そんなはずがない。切手は切手。販売した時は50円の価値しかなかった。それがすべてである。そもそもあんなカード、ゲームの流行が過ぎたら1円にもならないのだ。そんなもの財産ですらないというのが、一般的なものの見方なのだ。

ところがここで、一部のレアカードに10万円以上の価値を認めるとどうなるか。そうすると途端に、300円払ってガチャを回す権利を買うと、10万円相当の景品が当たるときもあるし、ゴミが当たるときもあるという解釈のされ方が成り立ち始めるのである。これは、少なくとも景品表示法に違反する。

こうなってくると、問題はかなり広範に拡散する。リアルなトレーディングカードモノなどは、最もわかりやすい延焼先だろう。これらはすべて、出てくるカードに本質的な違いはないというところを前提にしているからだ。

これらをもグレーゾーンに引き戻すとなると、例えば個別の「カード」の価値をどのように判別するのかといったかなりややこしい問題が頭をもたげ始める。市場価格といっても、個別のカードは短命かつ不安定すぎて全幅の信頼を置くには至らないし、カードの能力差に応じて個別に判断するとなると、壮絶なイタチゴッコが否が応でも想起される。

なので、今回コンプガチャに絵合わせ懸賞(上記告示の4)が適用されることとなったのはかなり大きなニュースだが、実は景品上限額(上記告示の1)が適用「されなかったこと」はさらに大きなニュースだと言ってもよいことだと思う。

今回のニュースは、風営法を擁する本丸警察庁様の出方はまだ不透明なものの、少なくとも消費者庁としては、ガチャという販売手法そのものについては原則として踏み込まない、若しくは踏み込めないという意思表示だと捉えてもいいのではなかろうか。

追記)ソーシャルゲーム事業者が取り得る対策について

いつも遵法精神で溢れかえる当ブログには、上記事案を受けてさっそくいくつかの脱法アイデアが寄せられているのでここで紹介しておきたい。

・絵合せの景品としてレアカードを300円で購入する権利を提供

現在、絵合せ懸賞の景品はレアカードである。このレアカードが果たして「景品」なのかについては若干の議論はある。原価もないし、原則として換金の手段もないことになっているのだから、確かにこれが「経済上の利益」かについては疑わしい部分もある。ただ、ソーシャルゲーム事業者は、まったく同じようなカードを300円で売っている。これは300円分の景品と見られてやむを得ないだろう。

ではこの景品を、「レアカード自体」ではなく「レアカードを買う権利」にしてはどうか。権利には理論的な価値があるが、300円のカードを300円で買う権利であれば理論的にゼロ円である。ゼロ円の価値のものをゼロ円で提供しても、普通景品とは言わない。完璧である。

・絵合せでなくて同一カードの重複を条件にする

「2以上の種類の文字、絵、符号等のうち、異なる種類の組合せを提示させる」から違法なのだ。であれば一種類にすればよいという非常にシンプルな法の潜脱である。

ただ、シンプルなだけに禁止は難しいように思える。あっちこっちの店で配られるスタンプカードや、何度も本当に申し訳ないがヤマザキ春のパン祭りと本質的に何も変わらないからだ。これでも禁止できるんすか消費者庁さんよ、という非常に挑発的な好手であると言える。