被害者にも責任が、とか言い出す人って何が言いたいの?

自己責任云々の前に正しい知識を共有するべき - 狐の王国』のブックマークページにおけるあまりのコメント率の高さ*1を見るに、自己責任という言葉はどうやらはてなー各位の「語りたい欲」をかなり刺激するようなので、折角だからなにかちょっと書いてみようかと思ったのだが、そもそもいったい何故被害者の自己責任を論じる必要があるのかがイマイチよくわからなかった。

職業柄、「投資は自己責任」というフレーズには比較的日常的に接するが、これはわかる。株で損しても証券会社が損失補填することはない(正確にはしてはならない)ということだ。証券投資はリターンがそれなりに見込める代わりにリスクも高く、往々にして巨額な損失が発生することもある。証券会社からしてみれば、ある大口顧客に巨額の損失が発生したとして、それが原因で当該顧客が取引中などに至ってしまうと、その後の手数料収入に大きく響くことになるから、当該損失の一部なり全部を補填するので今後とも弊社をよろしく!ということはよくあったそうだ。

しかしこれをやってしまうと、そもそも自己責任原則に基づく市場原理に反することになり、健全な市場運営や価格決定を阻害する要因となる。また、損失を補填されるのは大体大口顧客だから、これが明るみに出ると一般顧客が不公平感を募らせ、一般顧客の株式離れを呼ぶ。いずれにしても結果として証券市場が縮小する恐れがあるというわけだ。そんなこんながあって、損失補填の禁止とともに自己責任原則の再確認が声高に叫ばれ、今に至ると認識している。

但し、証券投資の自己責任原則には例外も設けられている。即ち、証券投資検討時の判断材料たる、当該証券の発行主体による開示資料の虚偽記載があった場合である。金融商品取引法の該当個所を参考までに引用する。

(虚偽記載のある目論見書等を使用した者の賠償責任)
第17条
第4条第1項本文若しくは第2項本文の規定の適用を受ける有価証券又は既に開示された有価証券の募集又は売出しについて、重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは記載すべき重要な事項若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の記載が欠けている第13条第1項の目論見書又は重要な事項について虚偽の表示若しくは誤解を生ずるような表示があり、若しくは誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けている資料を使用して有価証券を取得させた者は、記載が虚偽であり、若しくは欠けていること又は表示が虚偽であり、若しくは誤解を生ずるような表示であり、若しくは表示が欠けていることを知らないで当該有価証券を取得した者が受けた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、賠償の責めに任ずべき者が、記載が虚偽であり、若しくは欠けていること又は表示が虚偽であり、若しくは誤解を生ずるような表示であることを知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたことを証明したときは、この限りでない。

金融商品取引法,(略)金商法,J−SOX法,日本版SOX法,(旧)証券取引法,証取法

相変わらず金融商品取引法は長ったらしくて分かりづらいので簡単にまとめると、要は「有価証券の発行に際しての資料開示の段階で嘘ついた人は、騙されて買った人に対して、その損害を賠償しなさいよ」ということだ。*2細かな問題はありつつも、証券投資における自己責任の線引きはこのあたりにあると言って間違いはないだろう。

ここまでの話を大雑把にまとめると、投資家にはそもそも過去については正確な情報を知る権利があり、その限りにおいて自己の投資について責任を負う。つまり、正確な情報が提供され、それを下に判断し、投資行動に至ったのであれば、その行動の結果として生じる利益や損失は自分のものになりますよ、ということだ。ここまではよくわかるのだ。


ところが、この言葉を犯罪被害者に適用する人が多いようなのだが、これがわからない。例としてレイプ犯罪がよくとりあげられるようなので私もこれに倣うが、例えば若く綺麗な女性が、下着みたいな格好(表現がおっさんさくさいが)で、おケツをプリップリさせながら、明らかに治安の悪そうな人っ子一人いない夜道を、モンローウォークで闊歩してたとする。そして残念ながらというべきか案の定というべきか、とにかく暴漢に襲われたとする。

百歩譲ってその女性は、そういう場所でそういう時間にそういう行動をすることのリスクを十分に知っていたか、または知り得べきであったとして、そのうえで何らかのリターンを期待してそういう行動をとったのだとしよう*3。女性の自己責任といえるかもしれない。

しかし、だからどうしたのか。ヨッシー的に言えば、「でっていう。」である。


【まず第一に、被害者に責任や落ち度があろうがなかろうが、その人は被害者である時点で既に損失(害)を被っており、それらの損失(害)は上記の証券投資の例とは違い、金銭などによって簡単に埋められるものではない。*4証券投資であれば、自己責任の原則が適用される場合、その損失は第三者によって補填されるべきではないという話につながる。ではレイプ被害についても、自己責任が認められた場合は損失補填がなされるべきではないということか。もしそうであれば、自己責任でないレイプ被害については、その損失が補填されて然るべきということになるが、これは意味不明だ。レイプでも何でも犯罪によって生じた損失、特に人の命や心の傷の類は、それを補填するというのはそもそも不可能だし、そういうことをする(証券投資における証券会社のような位置づけの)第三者機関もない。結果だけみれば、すべての犯罪被害者は、責任があろうがなかろうが、その損失を現に被っているという意味で、自己責任の原則を既に適用されているように見える。にもかかわらず、【さらに追い討ちをかけるように】*5その自己責任を追求する姿勢にいったい何の意味があるのか


【次に、民事の損害賠償を、損失の補填のように考える人もいるかもしれないが、あれは上記金融商品取引法の例で見た虚偽記載の例と同様、当事者間における不法行為の代償であって、自己責任の範囲の外であるからこそ意味がある。*6民事と刑事の区別がつかない人のために言っておくと、損害賠償や慰謝料の請求は民事である。つまりこれは加害者と被害者の問題なのであって、第三者機関による損失の補填のようなものとはまったく次元が異なる。自己責任の殿堂たる証券投資の場合でさえも、虚偽の事実を公表することにより有価証券の募集を行うという不法行為をはたらいた場合は、それによる損害を賠償しなくてはならないという事実があることは、上に書いたとおりだ。今更引くまでもなかろうが、民法にもバチっと書いてある。

不法行為による損害賠償)
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

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自己責任だから犯罪者の罪(賠償責任)を軽くすべきという話であれば、これはさらに意味不明だということだ。加害者の責任は、専ら加害者の責任として法律に照らして判断されるべきで、被害者の行動とはまっっっっっったく関係ない*7。被害者の責任と加害者の責任を相殺してーなどという話はありえない。若い女性が下着みたいな格好で歩いていると、その結果として一般的に過失責任を問えないほどに人間の意識が消失するなどという科学的根拠があるのであれば、是非提示してもらいたいものだ。*8論外である。

だから、犯罪被害者の自己責任に言及する人は、いったい何が言いたいのかよくわからない。同情の余地があるかないかの話をしているということならばわからなくもないが、同情するしないなんて人の勝手だということは理解できないのだろうか。


【最後に、】*9冒頭でリンクを貼った記事において、『被害者に非が無いとまでは俺には言えない。』と明言したうえで雪山登山の例えを持ち出し、はてなーの「語りたい欲」を存分に刺激しまくったid:KoshianX氏などは、もしかしたら次のようにおっしゃるのかもしれない。

言いたいことは、犯罪や災難に遭わないための知識や知恵を共有しようということであって、自己責任や被害者の非、常識の欠如など(受ける印象がどれも同じなので、以下まとめて【自己責任】という。)という言葉の使用については、それを効果的に呼びかけるためのメタファーまたは言葉のあやである、と。

この場合、【自己責任】という単語は単に「世知辛い世の中」のような意味合いになるかもしれない。ただしそうは言っても、上でも書いたように、世の中には犯罪による損失・損害を現に被っていると言う意味で、あまりに理不尽な自己責任を押し付けられている人は数多くいるわけだ。そういう人たちにとってみれば【自己責任】のような言葉はあまりに残酷なのであって、その使用はメタファーということであっても配慮を欠くとしかいいようがない。

もし、自己満足のための欺瞞などではなく未来の被害者のためを真に思って「犯罪に遭わないための知識や知恵を共有しよう」というような主張がなされるのであれば過去に過剰な自己責任を負わされた悲運な被害者に対しても同等に配慮が払われて然るべきであろう。


私は、呪術だろうがなんだろうが、目的によっては見るべきところもあるのだろうと思ってはいるのだが、どうにもこうにもその目的がはっきりしないと思ったわけである。


つづきというか補足というか
被害者の自己責任と加害者の人権 - よそ行きの妄想


■追記
どうも劇的にわかりにくいようなのでまとめ。

  • 被害者に責任や落ち度があろうがなかろうが、その人は被害者である時点で既に損失(害)を被っており、それらの損失(害)は埋められるものではない。犯罪被害者は往々にして、リスクとリターンの関係から考えても過剰な損失(害)を被っており、さらにその損失(害)は金銭で埋められるものでもなければ、埋めようとする公的機関もない。
  • 民事の損害賠償を、損失の補填のように考える人もいるかもしれないが、あれは当事者間における不法行為の代償であって、自己責任問題の範囲の外であるからこそ意味がある。
  • 将来の被害者への配慮を唱えるのであれば、過剰な自己責任を負わされた過去の被害者への配慮を欠いていいはずがない。
  • よって、被害者の自己責任を追及する姿勢が、いったい何を生み出そうとするものなのかよくわからない。


■追記
なんかはてブに変なネガコメみたいのがいっぱい来たから応答するよ。

id:letterdust 「戦争責任て何なわけ?要はお金が欲しいの?」とか言うタイプの発想。←というコメ書いてネガコメ5に数えられるのは私の自己責任♪

はあ?『・・・とか言うタイプの発想』をしてるのは私?どこが?まったく意味不明。

id:xevra 真冬の寒風の中を水着で歩いている人が風邪を引いた。風邪を引いたのは病原菌が原因だし病原菌を絶滅させましょう。という話。実に正しいしその通り。水着で歩いていた奴はバカだが責任なんて無い。菌が全部悪い

どう見ても『病原菌を絶滅させましょう。という話。』ではないだろ。被害者に責任があったとしてもなかったとしても損失(害)はどっちにしろ埋まらないし、加害者が不法行為をはたらいた責任は被害者の責任によって免除されるものではないと思うんだけど、被害者の自己責任を追及しようとするの目的は何なの?ということ。大体病原菌は不法行為とかの対象じゃないだろ?バカなの?

id:geul 一方で、被害者は加害者の行動を洗脳するとすれば、ある意味で加害者だけど、そうした被害者は社会にとっての害悪だけど、個々人間で正当化される事由にはならないということですね。

トラバも読んだけど本当に素の意味で意味不明。同意してるのか反論してるのかすら不明。『被害者は加害者の行動を洗脳する』ってなに?なんか専門用語ですか?

id:metalbabble 夏場紫外線浴びすぎて皮膚癌になったから太陽壊せって話 わかるわかる

例の日本語が不自由な大先生ですね。うんちょっとどこにそんなこと書いてあるのか言ってみ?被害者にも責任があると思うなら、だからどうしたのか教えてくれよ。

id:j-kondo [はてサヨ][馬鹿][あたまがわるい]  はてサヨホイホイスレw

例の何でもサヨク認定しちゃう大先生ですね。タグ付けとコメントの関係からして意味不明だが、バカであたまがわるいはてサヨがはてサヨホイホイスレを立てた、という意味だろうか。はてサヨがホイホイ集まるのはウヨクの書いたエントリーじゃないのか?しかもどこにはてサヨが集まってきてるんだ?意味不明。てゆうかスレじゃないし。

id:KoshianX [referred] あやだかなんだか知らんが自己責任だの語る前に防犯意識はもっとけってだけ

まあだからそういうくだらない自己満足が露呈しないように、『もし、自己満足のための欺瞞などではなく未来の被害者のためを真に思って「犯罪に遭わないための知識や知恵を共有しよう」というような主張がなされるのであれば、過去の被害者に対しても同等に配慮が払われて然るべきであろう。』と書いておいたんだけど伝わらなかったかな。

id:Thsc 良いIR出して潰れたモリモトに責任がある→さあ新興不動産をS高で掴め、という暴論/金銭的に埋め合わせられる例を引く阿呆/勝手に責任問題に摩り替える論理=「責任さえ加害者にあれば被害に遭って無問題」の思想

モリモトの決算は見てないけど、虚偽記載がないなら法的責任はないよ(つまり投資家の自己責任だよ)。新興の不動産はいまどこも危ないから触らない方がいいと思うよ。ていうか意味不明。『被害に遭って無問題』?まじかよ!

id:y_nob 社会, 思想 うーん…このエントリで例として挙げている女性の場合、女性に対する賠償責任は過失相殺が認められある程度軽くなると思うけど……(あくまで民法で考えた場合)

これってほんとうなのだろうか?過失相殺って交通事故とかお互いが過失のときだけだとばっかり思ってた。
レイプの加害者は故意でしかあり得んと思うので、故意の犯行が被害者過失で割り引かれるわけ無いと思ってたんだけども。

*1:ブックマーク時にコメントを書き込むのって普通ブックマーカーの半分くらいじゃない?精々。

*2:こう書くと、かなり明確な基準のように誤認される方もいるかもしれないが、この基準も現実的にはかなり曖昧なものである。まさに現在ライブドア裁判と言うかたちでこの境界が争われているところではあるが、要は、虚偽記載に基づく損害を如何に定義するかである。これは虚偽記載であった旨が公表された前後の株価を比べるしかないわけだが、「公表日」とはいつかや、虚偽記載に基づく下落分はいくらか、などの非常に釈然としない問題が付きまとう。

*3:当然現実にはそんなことの立証がまったく不可能に近いことは百も承知である。なにせ、証券市場ではあれだけの膨大な情報量の開示を義務付けてもなお、「当然知っていたはずの情報」とやらははっきりしないのだ。

*4:【】内追記。

*5:【】内追記。

*6:【】内追記。

*7:当然加害者が被害者の行動を理由に、自身の犯行の突発性や心神喪失を訴え、十分に反省した態度を見せれば情状酌量の対象になるのだろうが、それは加害者の態度の問題であって、被害者の落ち度の問題とは関係がないと言いたい。以上追記。

*8:もちろん、まさに自己責任を問えないような先天的な異常で、女性に対するそういう欲求を抑えることが出来ない人はいるかもしれない。そういう人の人権はどうなるの、という議論はあり得るだろうが、いまはそういう話をしているわけではない。いずれにしても、現行の法律はそういった「異常者」を「健常者の社会」から排除するようにできているのだから、それはまったく別の問題だ。

*9:【】内追記。