資産運用について

我が愛するはてなー諸君は、私の知る限り、あまり資産の運用利回り確保について強いアペタイトを有しているようには見えない、というか要はカネを持っていないので適当に読み飛ばしていただければとは思うが、少し資産運用について考えたことを記しておきたい。別にポジショントークというわけではなく(証券会社には勤めてるが投資勧誘は私の仕事ではない)。

マーケットプライスは別にファンダメンタルで決まるわけではない

私も別に投資勧誘や証券分析を仕事としているわけではないので正確には素人ということになるわけだが、その辺のど素人よりは多少はマーケットに近い立場にいることもまた事実である。

ど素人が陥りやすい罠のひとつに、長期的にみれば例えば中国やインド企業等の業績は上向きそうだから、株式または投資信託を購入しようかというロジックがある。株式投信なんかにカネを突っ込んでる人は意外と多い。気持ちはわかる。アメリカ没落後の世界経済成長の牽引役となるのはBRICsに代表される途上国を除いてはあり得ないとは私も思う。

このロジックは半分くらいは正しいがもう半分は間違っている。間違っているというか劇的にロジックが弱い部分がある。それは、BRICs諸国の経済状況が良くなるという予想から、株が上がるという予想に繋がる部分である。

確かに企業業績などのファンダメンタル(経済の基礎的条件)は理論的な適正株価を判断する上での最重要ファクターである。しかしながら現実の株価というのは、決してそれだけで決まるわけではなく、そんなことよりも100倍くらい重要なファクターがある。投資家の心理だ。投資家の心理を単純に表現すれば、それはつまり強気か弱気かである。楽天的か悲観的かである。リスクに対する許容度で言えば、高いか低いかである。要するに、みんな強気のときは株を買うし、弱気のときは株を売るのだ。もっと言えば、みんなが強気だと思えば買うし、弱気だと思えば売るわけだよ。

ファンダメンタルの強弱に応じて投資家心理の強弱が決まるのだと思っている人もいるかもしれないが、それはまったく逆だ。そもそも現在のところ人間には未来を予測する力というのは一切備わっていない。では値動きのある商品のリスクや将来価値をいかにして定量化しているかといえば、突き詰めれば”なんとなく”か”そういう事例があるから”にしかならない。普通の人なら小学校低学年くらいで気がつくことだと思うが、”そういう事例がある”から”そうなる”というのは理屈にも何にもなっていない。気休めである。

株式、それも特に新興企業の株式というものは、まるでリスクの塊である。世の中の投資家が不安で弱気になったとき、真っ先に売られるのはこれだ。ファンダメンタルがどうで、将来どうなるとかは全然関係ない。単に世の中が楽天的になるとぶわっとカネが集まって、世の中が不安になると一気にカネが離れていくというだけの値動きをする商品に他ならない。

ポートフォリオ理論やリスク分散などの戯言に騙されてはいけない

ど素人が陥りやすい罠としてファンダメンタルと共に双璧をなすのが、ポートフォリオ理論だろう。

投資家は完全には相関のない複数の資産を持つことによってポートフォリオのリスクを減らすことが出来る。換言すれば、投資家は分散投資することにより、個々人が曝すリスクを減らすことが出来るということである。分散投資は、リスクを減らすことで同じポートフォリオの収益を可能にさせる。

現代ポートフォリオ理論 - Wikipedia

異なる値動きをする商品を組み合わせることで、資産全体で見たときの価格の変動幅を抑えるというのがこの話の肝で、要するにAが100円値下がりしてもBとCが500円づつ値上がりすれば大丈夫ということである。

この理論が詐欺的であるポイントは、言ってることはまっとうだが実は「相関のない複数の資産」などというものは世の中に存在していないということだ。これは全然難しい話ではなく、値動きのあるすべての資産は、上述したとおり投資化の心理に影響されるからである。投資家の心理というのは要するに美人投票だから、みんな似てくる。だからすべての資産は相関があるのだ。

こんな当たり前のことがわからずに破綻してしまったのが、現在の経済危機の引き金となった米国の証券化商品だ。あれのプライシングモデルというのはそれなりに複雑で、雑多に詰め込まれる複数の債権の回収状況を何万通りもシミュレーションを行う。それをもとにリスクやそれに基づく格付け、ひいてはプライスが決定される。ところがだ。シミュレーションの大前提となる各資産の値動きにおける相関関係というのは、評価者の主観以外にはあり得ないというのが最大の弱点だった。サブプライム層の住宅ローンとカードローン、それぞれまったく相関のない資産と仮定して・・・って相関がないわけがない。多少勤め先が違おうが、業種が違おうが、地域が違おうが、ローンの形態が違おうが、マクロ経済の影響を逃れる人はいないし、そもそもカネの出してが共通なんだから、相関がないはずがないだろう。つまり、結局ポートフォリオ理論の呪縛から逃れられずに、相対的に相関関係が強い・弱いという事実と、相関関係がある・ないという妄想を混同してしまい、わけのわからない格付け・価格をみんなで付け合っていたというのが、例の証券化商品の内情だ。

世の中が十分に複雑化し、コミュニケーションの手段が十分に発展した現代においては、相関がまったくない資産などというものは存在しない。乱暴な言い方をすれば、騰がるときは全部騰がるし、下がるときは全部下がるわけだ。あるのはボラティリティの違いだけなんであって、ボラティリティの高い資産をいくつ組み合わせたところで、何のヘッジにもならない。

現金で、それも円で持ってるのが一番いいんじゃないかな

難しいから投資はやめたという選択肢があればいいのだが、いまや通貨さえも投資商品なのであって、普通に現金を持ってるだけでもそれは円の買いポジションを持っているのと同義である。実感はないかもしれないが円安が進んだとき、ドルをベースに計られる資産の価値は減少しているのだ。我々はもはや投資・運用から逃れることはできないわけだ。ずっと日本の中にればいいと思ってる人もいるかもしれないが、貨幣の価値というのは、他国の通貨に対してのみではなく、物価に対しても変動することを忘れてはならない。つまり今後日本の財政が本格的に破綻し、ハイパーインフレに見舞われることがあれば、日本円というのは光の速さで紙くずに限りなく近づいていく。昨日200円だったビールは明日には300円になってるかもしれない。即ち、商品ではなく通貨を保有しているという段階で既に投資なのだ。

足元の状況を見るに、極めてボラティリティが高く、不安が張り詰めているような状況である。こうした状況にあっては、なるべくボラティリティが低く、安定した商品に資産を移すべきであると私は思う。火中の栗で中国株あたりでひと勝負されるのも結構だが、ただの丁半博打に過ぎないことは是非とも肝に銘じていただきたい。

アメリカがああなってしまった今、もっとも安定した国は日本以外にはあり得ないのではと思う。ユーロは結局烏合の衆だし、中国やロシアは論外だ。銀行預金かそうでなければ国債というあたりがよろしいのではないか。株はこの状況ではお勧めしない。