賛美される消費

Grouponなる米国のベンチャー企業が巷で話題だ。

日経新聞によると、「今年4月にようやく創立17カ月を迎えたグルーポンは1億3500万ドルの資本を調達したが、そのときの同社の評価額はに達していた」そうだ。

業績も絶好調のようで、創業して1年足らずにもかかわらず、「2010年度の推定売上は3.5億ドル(315億円),月間推定利益は400万ドル(3.6億円)を超えている」とのこと。さらに、モルガン・スタンレーがまとめたリポートによると、今年の年商は5億ドルを超える勢いなのだそうだ(うらやましいですね)。

ビジネスの内容は極めてシンプルで、要するにクーポンの販売サイトである。

主な特徴は、(1)時間限定・数量限定で販売されること、それから(2)一定以上の購入者が集まらないと販売しないこと。概ねこの2点。

購入者が、お得なクーポンを獲得するために、twitterなどのツールを活用して、共同購入を呼び掛けるという図式が出来上がっている。

あまりにもシンプルなサービスで、初期投資もクソもないビジネスモデルだから、みなさんのご想像通り、既に雨後の竹の子のようにパクリサイトが乱立している状況にあり、日経新聞の同じ記事によると「米国では200以上、米国以外の地域でも500(うち100が中国)の類似サイトがすでに出現」しているのだそうだ。一説にはグルーポン系サービス立ち上げ用パッケージ(パクリサイト作成キット)の販売も開始されているそうだ。


このビジネス、どうもどこかで見たことがあるよなあとずっと思っていたのだけれど、今朝、思い出した。

QVCショップチャンネルだ。

QVCは、少し前に話題になって「ガイアの夜明け」でも紹介されていたが、端的に言うと24時間生放送で延々と通販番組を流し続けるテレビ局のことである。

限定特売、数量限定を叫びながら、ライブであることを利用して残りの商品数が減っていく様を刻々と放映するという方法によって、深夜の1時間枠などで宝石やら化粧品やらを数億円単位で売り上げるらしい。

グルーポンというのは、つまり小規模事業者向けのQVCなんだろう。

QVCでものを売るには、当然それなりに規模も必要だし、コストもかかる(たぶん)一方で、グルーポンは非常に安いコストで出稿できる広告媒体のようだ。

そしてこれには、WEBの双方向性、即時性という特徴がtwitterによって飛躍的に高まったことをきっかけに、非常に少ない投資でグルーポンのような媒体/インフラをつくれるようになったという背景があるように思われる。


ところで、私は心の底ではあまりこういうサービスを好ましく思っていない。

当然いいところもあるというのはわかっていて、例えば効果・効能が直感的にはわかりづらく、ある程度説明が必要な商品などを売るには適した媒体なのだろうと思う。

ただどうしても、今だけ!とか限定!などと煽られると、不要不急のものでもついつい買ってしまうという消費者の悲しい"さが"につけ込むという印象はぬぐえない。

フラッシュマーケティングとか、プッシュ型メディアとか言うとなにか素晴らしい理論のように聞こえなくもないが、日本語で言うと、つまりは押し売りである。


確かに、消費は甘美だ。買い物をすると、自分が少しだけ価値のある存在に思えて、ストレスの発散になる。そういう意味で、上述の2つのメディアは、顧客に対し、本質的には消費という経験を提供しているのだと言えなくもないかもしれない。

ただ、「おもちゃのベルトを巻いたって強くなんかなれない」のと一緒で、消費によって本質的に何かが解決するということはありえないように思う。

であれば件のメディアこそは、ビートたけしが言うところの貧乏を貧乏の中に封じ込めて、その中で金を回すという商売のまさに筆頭格である。なにか、ひどく残念な気持ちになるのだ。