オンラインのコミュニティは新しい社会か

はてなで大人気の、ハックルベリーに会いに行く人が、先日突如ご本名を晒したところ、当該記事のブックマークページを中心に、ある人が「予想通り」と聞かれてもいない後だし予想を佐藤藍子さながらに披露すれば、またある人が「どう考えてもそれは自分のことだろ」という突っ込みも恐れずに「権威に弱いはてなーw」を嘲ってみたりと、はてなーの愛憎が交じり合いなにやら空恐ろしいことになっている。

そうした状況が面白いことはとりあえず置いておいて、私にはひとつ気になることがある。件のエントリーによれば、同氏は大学卒業後、「作詞家である秋元康さんの事務所に入社」し、「放送作家として」「「とんねるずのみなさんのおかげです」「殿様のフェロモン」「ダウンタウンのごっつええ感じ」「クイズ赤恥青恥」「ドラゴンズ倶楽部」など」を担当し、30になると「今度はプロデューサーとして」働いたかと思えば、今度は心機一点「「さるサルDS」というニンテンドーDSのソフトをプロデュースしたり」している。なんだかよくわからないことはわからないが、日本でトップクラスの収入を誇るテレビ業界で、しかもあの大御所秋元康*1大先生のもとにいらしたと言えば、それなりの収入を想像してしまうのは決して不自然なことではないだろう。少なくとも資本主義的に考えて、この方は成功してる部類なのだと読んだ。

そんな同氏は、どうやら1年ほど前に「Webの世界を勉強するため」に、「ブログを作ってみ」たと。で、その結果がこれだ。購読者数はブログ全体で480位(上位0.25%)、被ブックマーク数はブログ全体で55位(上位0.03%)。これ、累積のランキングなのに、である。いやすごいよ。

問題は、同氏はずっと本名も役職も経歴も伏せて書いていたのだから、本来現実世界における成功とは何の相関もないはずなのに、たった1年でオンラインの世界でも成功を再現してしまったということだ。オンラインのまったく新しい世界で、それぞれ現実世界とは関係のない人格というか名前を使って、まったく新しい競争をしていたはずなのに、何故また同じやつが勝利しているのかという件について、我々としてはそう簡単に納得してはいけない

こっちの人も、購読者265位(上位0.14%)、被ブックマーク数82位(0.04%)だ。実名ではない。というか、こともあろうか「継続的に読んでくださっている方の数、またPVに関しても、本名で書いている方のブログまであと一歩、というところまで(ようやく)やってきました」とぬかす。「“完全な匿名”で、つまり、文章の力だけでどこまでいけるかチャレンジするのが、はてなでブログを書き始めた理由、というか目標だった」と続く。もうあれである。どんだけー、である。


私は基本的に、成功の秘訣と言うものを信じない。世に成功の秘訣を自称する法則めいたものは掃いて捨てるほどに溢れているが、そんなものが次々と語られ消費されること自体が成功に秘訣などないことを表す証拠である。成功に秘訣があるなら、さっさと解明され、とっとと共有されて然るべきだからだ。

であるからして、上で紹介した成功者たちは、何らかの法則を持ってして成功を再現したわけではないと私は考える。一度目の成功と二度目の成功。それぞれに共通する成功の秘訣がないとすれば、考えられることはただ一つだ。彼らは一度の成功で得た「富」を活用することで二次的な成功を得たのだ。金持ちが、持ってる金を運用してどんどん金持ちになっていくのに似ている。二度目の成功に限って言えば、その成功の秘訣は一度目の成功だったのではないかというわけだ。

いずれの成功についても、その過程において「富」が蓄積される。ここでいう「富」とは、貨幣的な価値には限定されない。稀有な経験や独自の視点、得がたい信用などを含み、要するに当該成功者の価値としてあとに残るものだ。そして価値とは利益をうむものである。

「富」は少し抽象的だが、わかりやすく「成功体験」などと言い換えてもよい。成功とは相対的に優位な状態を指すのだとすれば、成功を体験する人の数は自ずと限られることになり、成功体験それ自体に関する談や、成功体験から生じる視点から語られる談は稀少価値を持つことになろう。


つまり、オンラインコミュニティが論じられるに際して、それはしばしば新しい社会といったような形容をされる一方で、実はオンラインの社会というものはオフラインの現実社会から隔離したものではまったくなく、むしろオンラインの社会における競争がオフラインの現実社会における成功に大きく左右されている現状を見るに、オンラインの社会とは、少なくともいまのところは、オフラインで培った価値を再販する二次流通市場に過ぎないのではないか。中古車市場みたいなもの。

私のような何の変哲もないヘタレは、再起をかけてオンラインの社会での競争に繰り出したところで、所詮1日のページビューが1万にも満たない泡沫ブロガーに過ぎず、既存の成功者の「富」の再利用、搾りカス的な価値の再販戦略を前にして成すすべなく、行き着くところは精々成功を定義しなおすことによるお山の大将である。

こういうことを書くと、ブログの成功は人それぞれだから、お山の大将でいいじゃないか的な口上を垂れるバカが決まって沸くが、読まれないブログに何か【対外的な】*2価値があると思っているなら大間違いだ。書いた記事が読まれなくては、コミュニケーションがそもそも成立しない。成功の定義のようなご立派なことは、それなりの読者数を実現してから述べていただきたいものだ。

まして、はてなブックマークが気持ち悪いだの何だのと愚痴て、ろくにいもしない読者に勝手に怯える様はお笑いぐさだ。ブックマークがどうだのとか、ブログがどうだのとか、実に目くそ鼻くそじみた話である。

ということで、

次回は、ブログに読者を集めるための「価値の再販」以外の方法について考えてみたい。
ブログの読者を増やすための12の戦略 - よそ行きの妄想

*1:個人的には好かんけどね。

*2:【】内追記。