メシウマ脳の恐怖と相対的報酬・剥奪と、ベーシック・インカム

他人の不幸は密の味*1と昔から言われるが、このたび科学的にも実証されたとかされないとか。

産経の記事から引用。

他人の成功や長所を妬(ねた)んだり、他人の不幸を喜んだりする感情にかかわる脳内のメカニズムが、放射線医学総合研究所や東京医科歯科大、日本医科大、慶応大の共同研究でわかった。妬ましい人物に不幸が訪れると、報酬を受けたときの心地よさにかかわる脳の部位が働くという。

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要するに、他者の不幸というのは、自身に対する相対的な報酬なのだろう。
つまり、報酬について考える場合、他者が奪われようが、自己に与えられようが、人間はむしろ相対的な差の方を認識するから、効果としてはどちらも同じということ。自分の位置は変わらなくても、他の人が低くなったらあら不思議、自分が高くなったような気がするというあれ。


そして同じことは剥奪についても言える。
自分が以前の自分と同一の水準を維持していたとしても、他の人が多くを得ていると、相対的に剥奪された気になるということ。

先日、次のような記事があった。

松島さんは、これまで週1、2回スーパーで購入していた480円の刺し身を購入できなくなり、果物も100円のバナナしか買わなくなった加算廃止後の厳しい生活実態を吐露。友人に旅行に誘われても断っているといい、「惨めな気持ちになる」と述べた。

痛いニュース(ノ∀`) : 生存権訴訟 「旅行の回数減らした」「480円の刺身が買えない」「子供の散髪は年数回」 - ライブドアブログ

以前の生活との比較に主眼がおかれているようにも見えるが、ポイントは「惨めな気持ちになる」というところだろう。やはり相対的な基準こそが問題なのだである。他者と比較して十分に与えられない状態というのはつまり、相対的な剥奪を受けている状態なのだ。


このことからわかるのは、すべての人が満足する状況というのは、いまやあり得ないということである。いくら人類が栄え、人々が富み、トリクルダウン効果によって生活水準の最低ラインが向上し、誰しもが食うには困らない状況が実現したところで、相対的な差は厳然と存在する

この相対性に対する絶対化は、情報通信技術の発達によって、(相対的に)貧しい人たちが富める人たちの生活実態を把握する手段を得た時点で不可逆的な流れとなったと思う。情報通信技術が発達した豊かな社会であるほど、格差が問題視されるのだ。つまり、この先いくら経済が発展しようと、生活が良化しようと、格差の問題が解決される可能性はまったくない。

最近、ベーシック・インカムなる社会制度が注目を浴びているようだが、すべての人が最低限の生活を保障されるということは、その生活をしていては差異を確保することができないということである。結局我々は、同制度の導入前よりも更に労働に従事することになるだろう。

他方、生活世界の呪縛から解き放たれ、完全に合理化された市場経済は、人間により一層の欲望を突きつける*2ことで、より一層の繁栄を実現するだろう。成果のあがらない人物を解雇する際の心的呵責は消え失せ、無能な人は容赦なく経済社会からは排除されることになる。競争が自由になればなるほど、勝敗は単に実力を反映したものになるのだ。人は実力主義の競争社会に心酔し、益々他人を蹴落とすことに躍起になるだろう。競争のために競争するような人物だけが勝者となる。そしてそれこそが、経済システムにとっての合理性なのだ。

足手まといを切り落とした経済社会は更なる発展を遂げるだろうが、競争に敗れ勤労の義務すら奪われた能無しの精神は、どこに行き場があるだろうか。収入がなくては、消費で誤魔化す*3ことすらも叶わない。唯一の道は、弱者のアイデンティティを築き、敢えて働かないことを選択するとともに、競争社会の人間的非道徳を責めて喚き散らすことくらいだろう。

ベーシック・インカムが実現するのは、間違ってもユートピアなどではない。それは、市場経済が合理化し、肥大化するための単なる通過点だろう*4

追記

ちなみに、ベーシックインカムとはつまり、めんどくさいから全員に配っちゃえばよくない?という手抜き政策なのであって、これをするならもう政府による所得再配分機能など必要ない。究極のネオリベ路線であり、小さな政府路線である。
つまり、政治家や官僚がこの方針を支持することは、まずない。

*1:このことをネットでは「メシウマ状態」と言うらしい。

*2:つまりベーシック・インカムは最低限の報酬を保障する一方で、我々に対して「だがそれで満足なのか?」と問い続けるわけだ

*3:消費とは、弱者の目を、自らが被支配者層である事実から背けさせるためのレトリックである。

*4:ちなみに私はどちらかといえば賛成派。なぜならそうは言っても先に進むしかないと思うから。