コンテンツ業界の海外収支

仕事用に適当な資料を探していたところ、少し古いけれどインパクトのあるグラフが出てきたので、こちらで紹介する。

以下のグラフは、経済産業省のコンテンツ課の方が作成されたものだそう。映画、ゲーム、音楽、出版といった主要なコンテンツ産業における海外収支を表している。一目見ればわかるが、輸出があるのはゲームだけ、その他の産業では輸出はほぼなく完全な輸入超過の状況のようだ。確かに、日本のゲームはかなり世界でもプレイされている印象があるが、映画や音楽、出版の話というのはほとんどまったくといっていいほど聞いたことがない。ドリカムと宇多田ヒカルが果敢に米国進出を試みたのは記憶にあるが、どちらも芳しい結果ではなかったように記憶している。下のグラフは、そういう意味で実感にそぐうものであるし、たぶん現状でもたいして変わっていないのだろうと思う。

■コンテンツ産業の海外収支(2001年と2004年の比較)

コンテンツ振興政策について | 経済産業省(PDFファイル)


なぜゲームのようにうまく行かないのかといえば、単純な競争力の問題ではないだろうか。コンテンツ業界の競争力と言えば、基本的にはブランドだろう。”ハリウッド”なんかは一番わかりやすいが、”フランス映画”という響きもなかなか情緒がある。そして、こうしたブランドはおそらく、歴史的な経緯・下積みによるのだろう。我が国日本は第二次大戦で敗戦を喫し、焼け野原から再出発したようなところがあるので、それよりも古い歴史がある産業ではいまいち弱いのだと思う。

まず映画について言えば、基本的にはハリウッドがカネに糸目をつけない大作もの、欧州が歴史に裏打ちされた文化というポジションを強固に保持していて、日本の立ち居地はない。映像コンテンツつながりで言えば、アニメーション分野では一時期日本発のコンテンツも好調だったよう*1だが、ご存知の通りいまやディズニーを筆頭にした米国映画業界はフルCGバブルさながらの状態である。そうした状況にあって、資金力で大きく劣る日本のアニメーション業界は、比較的製作にカネのかかるフルCG分野ではすっかり遅れてしまっている。

音楽なんかはもっと顕著で、そもそも現代の日本における主流なヒット曲は基本的に欧米の猿真似なのであって、これを輸出しようと言うのは発想からしてまず無理だろう。日本の伝統的な民族音楽を輸出しようと言うならまだ話はわかるが、最高にニッチなマーケットであることはいうまでもない。「ミスチルを目指して終わるな」と坂本龍一氏もおっしゃっているが、日本の音楽業界のトップクラスであるミスチルであっても広いグローバル音楽業界で考えたら枝葉末節なのであって、そもそも本流は日本にはないよ、ということだろう。支流の支流では日本国内でも厳しいよ、と。

出版についても、グラフを見ると多少輸出もあるようだがこれは漫画ではないだろうか*2。学術書の類で言えば、やはり国際的な権威は日本にはないわけで、輸入超過となるのもうなづける。


こうして考えてみると、むしろ競争力がないわりには輸入額が抑えられているのではないかという気になってくる。

おそらく普通の競争力のない国であれば、これらのコンテンツはそれこそ100%輸入することになっていたのだと思う。ところが、我が国にはこういったコンテンツを楽しむ文化的素地のある国民が結構たくさんおり、ニッチマーケットにしては結構サイズ感があるため、100%そこにターゲットをあわせることで、つまり日本というニッチマーケットに特化することでそこそこ成功してしまう国内事業者が後を絶たず、それがなんとか輸入を食い止めているというのが実際のところだろうか。

ただ、最近はその自慢のニッチマーケットもさすがに飽和状態の頭打ちで、国内コンテンツ事業者さんも悲鳴をあげているらしいし、国際的なブランドの構築なぞ一朝一夕でできようもないから、徐々に国内のリソースは国際的に競争力のある産業に集中していって、各コンテンツについては普通の競争力のない国として素直に輸入しましょうという話になるのかもと思った。

*1:ただそれも映画ではなくTV放送シリーズの輸出がメインであって、文化的な評価と言うよりは一過性のブームと言う色合いが強い印象がある。

*2:完全に推測。要出展。