大王製紙、井川元顧問はツンデレのデレの方も出した方がいい
最近、大王製紙から目が離せないわけである。
井川意高元会長が、会社のカネを不正に流用した挙句、あろうことか全部カジノですってしまうという痴態を演じ、会社に巨額の損失を生じせしめた事件は記憶に新しいが、いま、その元会長のお父上にあたる井川高雄元顧問(この呼称も大概普通ではない)が世紀の逆ギレを見せている。
息子の不始末も何のその、会社側に創業家の影響力が強すぎた結果起きた問題と言われれば、他の取締役にも責任はあるのだから創業家ばかりが責められるのは不服と言い返し、何か最近は、創業家が直接株を持っている大王製紙子会社の経営権を強奪してまわっているそうだ。
元顧問は、株主提案によってか対象会社に臨時株主総会を開催させ、大王製紙から送り込まれた経営陣を解任するとともに、子飼いのジジイなどを次々と役員に送り込んでいるらしく、その結果大王製紙の連結対象は激減、連結業績を下方修正せざるを得ない状況に陥っているというのだから、喩えでも何でもなく、強奪としか言いようがない状況である。
まあ、そもそもの問題として、いくら創業家が相手とはいっても、第三者に子会社の株という会社の重要な資産を持たせるというのは、要するに他人にキンタマというかクラウンジュエルを預ける行為にほかならず、常識的な企業統治のなかで発生し得る状況ではない。息子の事件もひっくるめて一連の騒動は起こるべくして起こった感は否めず、世の中的には、ますますもう勝手にやってよねという感じで結論が出た感はある。
こうした冷笑する周囲に歩調を合わせるがごとく、会社側としては、子会社の買い戻しという至極当然の申し入れを淡々と行ったわけだが、ひとり加速度的にヒートアップし続ける井川高雄元顧問は、この提案を金額が安過ぎるとして却下。大した根拠もなくバッサリ切り捨てると、返す刀で今度は経営権を強奪した子会社をして、よその製紙会社との取引を開始させるようなことまで匂わせる始末であり、ますます敵対の姿勢を強めている。すごい。そこまでやらないよ普通。
こうした元顧問の行動は、見た感じ完全にグリーンメーラーのそれだ。グリーンメーラとは要するに、ある会社の株を買い集めた末、あらゆる影響力を行使してその会社や役員に株を高値で買い戻させるという一連の流れを生業とする輩のことであり、企業再生ファンドやアクティビストファンドなどと並び、概念「ハゲタカ」を構成する主要な要素の一つである。実際、お父さんがグリーンメーラーで息子はカジノ狂いのギャンブラーと整理すると、やはり血は争えないという結論が自ずと導かれ、収まりよく点が線になる感じはある。
ただ、残念ながら、元顧問は厳密な意味でのグリーンメーラーではない。もし彼が真の(?)グリーンメーラーだったなら、保有株はもう売ってしまっているはずだ。推測でしかないが、会社側の提示金額はおそらく元顧問の取得額を大幅に上回っているはずだ。当たり前だ。創業者なわけだから。取得原価はほとんどタダみたいな値段であっても不思議ではない。
例えば、値段を一割吊り上げれば儲けが倍になるとかいう状況であればいざ知らず、もともと大きな儲けがあるのに、それをちょっとだけ増やすためにここまで大揉めするというのは、どう考えても合理的ではないし、得策でもない。揉めてる間にも企業価値はどんどん毀損していくのだから。
それでは元顧問を戦へと駆り立てているものは一体何かと問われれば、それはつまり、愛みたいなものではないかと私は主張したい。いや別に主張するほどのことでもないのだが。
非常によく見られる現象だが、創業者の会社を想う気持ちというのは、親が子を想う気持ちに似通る。私も某IT企業で企業買収に携わっていた折、子離れできない親というのをたくさん見てきた。こちらとしては、いやお義父さん娘さんが可愛いのは分かりますけど、でも僕たち結婚したんですから風呂場まで入って来ないでくださいという感じなのだが、やれ娘は風呂場で転んだことがあるからとか何とかと言って、口を出してくる。
会社に人格はないが、組織としての文化はある。そしてそれは創業者が徐々につくりあげてきたものであり、そのプロセスは育児さながらだ。愛情が芽生える気持ちと言うのは、なんとなくわかる。
元顧問の行動も、会社を想うあまりしつけが行き過ぎるとか、可愛さ余って憎さ百倍とか、倒錯した愛情とか、そういう文脈で捉えたほうが割りと合点が行くのである。そう。殺人事件の約半数は、親族内で起こるのだ。アクティビストファンド不在の本邦株式市場において、何が一番揉め事に繋がるかと言ったら、創業者と会社という擬似親子間の愛憎のほつれしかないではないか。愛憎相半ば。親しき仲にもツンデレあり、である。
ところが不思議なことに、こうした感情というのは、しばしば隠匿され、まるで最初からなかったかのように扱われる。そしてその代わりとして取ってつけたような合理性が掲げられることが常だが、後付けの突貫工事なので、収まりが悪いことこのうえない。これって何なんだろうか。
今回の件でも、安すぎる金額の提示で信頼関係が崩れたから、とりあえず社長が辞めろというのは、理屈として悲しいほどにかみ合ってない。合理性の範疇で考えると、提示金額が安すぎた場合の要求というのは、値上げ以外にはあり得ないだろう。社長を辞めさせたところで一文の得にもならないではないか。このチグハグさは、本音としては要するに恩知らずなバカ息子に対してついカッとなっただけであって、本当は提示金額など見てすらいないという実態を、明け透けに示している。
今回の件、おそらく元顧問の側はいずれグダグダになり、遠からず敗北を喫するだろう。王子製紙の名前を出して牽制したところで、王子製紙としても変な揉め事に巻き込まれたくはないだろうから、こっち見んなという感じであることは疑いようもなく、いつまでも牽制として機能するとは到底思えない。そもそも合理的な論拠など端からない癖に、単にあるようなフリをしているだけなのだから、合理的に話し合って勝てるはずがないのである。
であれば、私は、元顧問はもっと開き直って、正直に、情緒的なスタンスを取るべきではないかと思うのである。「私の親愛なる息子たちへ」で始まる感動巨編をしたため、楽しかった日々の思い出でも綴ってみてはどうか。案外TBSあたりが食いつきそうな予感はするが。