そうは言っても株主資本主義こそがもっとも効率的ということでもない
民主党の藤末健三議員のブログ記事が話題だ。
特に以下の記述がいろいろと議論を巻き起こしているようだ。
最近のあまりにも株主を重視しすぎた風潮に喝を入れたいです。
公開会社法、民主党はこう考える | 民主党参議院議員 ふじすえ健三
今回の公開会社法にて、被雇用者をガバナンスに反映させることにより、労働分配率を上げる効果も期待できます。
確かに突っ込みどころの多い記述で、おなじみの池田信夫氏は自身のBlogで以下のように反論している。
藤末氏の話は1980年代に欧州で流行した「ステークホルダー資本主義」というやつだが、そんな流行はとっくに終わり、株主資本主義がもっとも効率的なガバナンスだというのがTiroleの結論である。
池田信夫 blog : 「公開会社法」が日本を滅ぼす - ライブドアブログ
(中略)
労働者管理企業をめざす公開会社法は、日本をユーゴのような社会主義にし、株主の投資に労働者や他の雑多な「ステイクホルダー」がただ乗りすることを容易にして、ただでさえ低い株主の投資意欲をさらに減退させ、日本の成長率をマイナスにするだろう。
言いたいことはわかるが、これはこれで言い過ぎである。
「株主資本主義がもっとも効率的なガバナンス」だと言うが、株主資本主義にも当然向き不向きがあって、それは日本政府を株主資本主義的に運営したらどうなるかを考えればすぐわかる。
多くの資産を有する資本家に政策の決定権が集中し、彼らの合理性のみで政策が左右されることになれば、貧乏人に対する保護は手薄になり、社会のセーフティネットは機能しなくなる。常に強者が勝利するような完全競争社会が間もなく実現されるだろう。
これは貧乏人にとって望ましくないことであるばかりか、最終的には資本家たちの首を絞めることにもなる。夢も希望も失った貧乏人が団結して暴動を起こし、社会システムが崩壊するためである。
要するに、資本主義社会を維持するためにはセーフティネット的な仕組みが必要であり、当該セーフティネットは資本主義的ではない方法によって運営される必要がある。
このことは日本社会全体で考えても当てはまるし、個別の企業内部についても当てはまる。
例えば、極端な話だが、企業の人事制度として完全成果主義を導入し出来の悪い社員は容赦なく排除していった場合、各社員間には互いを蹴落とし、陥れるようなインセンティブが生れることになる。これは短期的には社員のモチベーションを向上させ、会社の収益を押し上げるかもしれないが、それが極端になってくると足の引っ張り合いで会社全体の売上はむしろ下がりだすし、いくら頑張っても報われない社員は会社を去るため人手が慢性的に不足し、終いには優秀な社員も仕事ができなくなる。
労働者管理企業をめざせとまでは言わないものの、企業の維持を考えると労働者の保護というのはある程度短期的な株主利益に反して行っていく必要はあり、そうであれば、その保護の度合いについてまったく議論の余地なく自由化こそが望ましいと言うことはないだろう。
当の池田信夫氏自身も、同じBlogの別の記事においては、「『ステークホルダー』とか『社会的責任』などの問題は、契約や法で解決すべき」と語っている。要するに大事なのはバランスである。
ただし、現状は池田信夫氏も指摘するとおり経済全体のパイが縮小する最中なのであって、賃金の下方硬直性を考えると労働分配率は上昇しているのだから、経済を改善する目的のもとで労働者の保護を一層充実させようと考えているのであれば、それは根本的に何かが間違っていると言う他なく、その点については池田信夫氏に全面的に賛同せざるを得ない。
上述したように、セーフティネットこそが資本主義社会を持続可能にする鍵である一方で、セーフティネットを支えているのは資本主義社会だからである。