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iPhoneはなぜ売れたのか

先週iPhone3Gから機種変更して、auのスマートフォンを買った。購入したのは「htc EVO WiMAX ISW11HT」(以下単に「EVO」)で、日本初のWiMAX搭載ケータイとして多少注目を浴びている例のアレだ。これによって、私の2年間に及ぶiPhone生活に終止符が打たれたこととなったので、果たしてiPhoneとは何だったのかなどということを少し考えてみたわけである。

WiMAXとテザリングという高機能

iPhoneとは何だったのか、他のスマートフォンとの比較でわかることもあるだろうから、まずは新しく購入したスマートフォンの説明を少しさせていただくが、EVOの目玉は間違いなくWiMAXとテザリングである。

EVOは、日本で初めてのWiMAXを搭載した携帯電話である。WiMAXとはなにかについて、コチラのページから適当に引用すると「大容量のモバイルブロードバンド通信の方式のひとつ」で、通信速度は「下り最大40Mbps、上り最大10Mbps」、「サービスエリアは全国の主要都市をカバー」しているのだそうだ。簡潔に言うと、少しエリアに不自由があるが滅法早い通信回線ということだろう。

下り40Mbpsという数字は当然理論上の最大値なわけだが、先ほどスピードテストサイトで実測したところ6Mbpsは超えており、実際使った感じも確かに早い。光回線と比べてもそん色のない水準である。エリアはもちろん携帯回線と比べればイマイチだが、私の場合は幸い自宅でもオフィスでも余裕で繋がるのでまったく問題なし。ただ、地下鉄が駅を含めて絶望的なので、これははやく何とかしてほしいところではある。

また、EVOはテザリングに対応しており、EVOをアクセスポイントとしてWi-Fi対応した機器を8台まで同時にネット接続させることができる。家のデスクトップも、ノートPCも、iPadも、iPod Touchも、Nintendo DSも、Playstation Portableも全部だ。設定も実に簡単で、EVO側ではパスワードだけ設定して、テザリング機能をONにするだけ。あとは、接続したいWi-Fi対応端末でEVOのアクセスポイントを探し、先ほど設定したパスワードを入れるだけ。1分でできる。

ここで気になるのは料金だと思うので、iPhoneとの比較を一応下表にまとめてみた。

iPhone EVO
基本使用料 980 780
基本パック 315 315
パケット通信 4,410 5,460
WiMAX 0 525
端末割賦 1,920 2,843
月々割 -1920 -2,000
合計 5,705 7,923

iPhoneは、Softbankによるまるでガソリン暫定税率なみにいつ終わるのかわからないキャンペーンによってパケット通信料が通常の5,980円から4,410円に値引きされているし、全世界で5,000万台以上出荷している超大量生産機種なので端末代金の負担もかなり低く、全体としてかなり安い。対するEVOはiPhoneよりも毎月約2千円高くなるが、この値段をどう捉えるかというのは、テザリングに対する考え方によるのだと思う。

iPhoneなどの他に、屋外でPCを接続するためにPocket Wi-FiなどのデバイスやUSB接続するデータカードなどをお持ちの人は、それを解約することができる。月2千円以上の節約が見込めるケースは決して少なくないだろう。別に何の保証もしないが、一人暮らしの人などはおそらく自宅の光回線なども解約し、通信回線をEVO一台に集約してしまっても大丈夫ではないかとさえ思う。

iPhoneにないもの

さて、上のような話は、あまりスマートフォンなどに興味がない人に対しても意外とウケが良く、話すと結構感心されたりもする。2年前にiPhone を購入した時も「どうなの」と聞いてくる人にはいろいろと説明し、最終的には感心されることなども少なくなかったが、今回はそれとはまた少し違った手ごたえを感じている。

私の知り合いで、妙に現実主義的で雰囲気に流されるようなことを嫌う人がいる。その人と何度かiPhoneについても話をしたのだが、私は終にその人にiPhoneの魅力を伝えることはできなかった。その人は常に「iPhoneでしかできない便利なこと」を求めてくるのだが、意外とそんなものはないんである。iPhoneのAppStoreには10万を超えるアプリケーションがあり、「なにか凄いものがありそうな予感」はあるが、その具体的な「なにか」を提示することはなかなか難しい。どれも普通のケータイでもできることばかりである。実際、iPhoneを買ったばかりのときはいくつもアプリケーションをダウンロードしたものの、結局メールとSNSiPodくらいしか使ってないという人は多いだろう。ただでさえiPhoneにはオサイフもワンセグもついてないのに、それを補って余りあるような画期的な「なにか」がないとあっては、その事実だけをとらえる限りiPhoneは確かに魅力のない端末である。

他方のEVOだが、今回その同じ人に世間話でEVOを紹介してみたところ、これが意外とウケたのだ。てっきりiPhoneの二番煎じ的扱いを受けるものと思っていたが、予想に反して「すごい」みたいな反応だった。何がそんなに気に入ったのか、実はあまり突っ込んで聞いたわけではないので本当のところはわからないのだが、おそらく上に書いたWiMAXやテザリングの話ではないかと思う。

つまり、「機能」である。

そう、iPhoneには目玉となるような「機能」がないが、EVOのWiMAXやテザリングというのは実にユニークな「機能」なのである。

iPhoneにあるもの

目玉となるような「機能」を持たない端末が、世界で5000万台も売れたのは一体なぜなのだろうか。

twitterでこのiPhoneの謎についてひとりごちていたら、いくつかレスがあった。

ジョブズのプレゼンのうまさなど、appleのマーケティング能力に解を求めるものもあったが、私にとっては以下のものが合点がいった。

「操作」である。普通、ある「機能」を実現するための手段が「操作」であるところ、iPhoneでは「操作」そのものが価値を持っているという面はないだろうか。iPhoneのホーム画面に指を這わせると、綺麗に整頓されたアイコンがぴったりと追従してくる。まるで本当にそこにアイコンがあって、指で触れているかのように。こうした経験は今でこそAndroidという類似品があるが、当時は非常にユニークなもので、iPhoneでしか味わえないものだった。何の目的もなくiPhoneのホーム画面を行ったり来たりした経験はiPhoneユーザーなら誰しもあるのではないだろうか?

iPhoneの価値は、単なる「機能」ではなく「操作」を含めた”iPhoneという経験”すべてだったのだと思う。これは、読売ランドのようないわゆる遊園地とディズニーランドの差に似ている。アトラクションの機能というか動き自体は遊園地もディズニーランドも大して変りなく、要すればシェットコースターだったりお化け屋敷だったりメリーゴーランドだったりバーチャルリアリティ的なものだったりするが、ディズニーランドが他の遊園地と圧倒的に差別化されているのは、その世界観である。ディズニーランドのヘビーユーザーは、別にビッグサンダーマウンテンと名付けられたジェットコースターにスペシャリティを感じているわけではなくて、むしろそこにたどり着くまでの造形物やすれ違う有名なキャラクター、そしてあの独特な雰囲気を楽しむのだ。まさに”ディズニーランドという経験”すべてが価値なんである。

思えば、上で紹介したiPhone嫌いの知人でさえも、iPhoneの地図には些か関心を寄せていたやに思う。iPhoneの地図は要するにただのGoogle Mapだが、ピンチインやピンチアウトも含めて、iPhoneの操作感が見事に凝縮されたアプリケーションだった。

なぜiPhoneを買うのか

私がiPhoneから機種変更した理由のひとつに、いまやあまりにも大勢の人がiPhoneを持っていて、特別感がまったくないというのも少なからずある。電車に乗っていても普通に両隣と正面が全部iPhoneだったりする。本当に多くの「普通の人」がiPhoneを持っているのだ。こういうのを、「キャズムを超えた」と言うのかもしれない。

一方iPhoneの設定は「普通の人」には若干難しく、私が知っているiPhoneユーザーのうち何人かは、ろくにアプリケーションをダウンロードすることすらできない。確かにあのiTunesの不安定な挙動に「普通の人」が寛容でいられるはずもない。私が家電量販店でiPadをいじっていたとき、隣の客は店員に「インターネットとか見れるんですか」とだけ質問し、購入を決めていた。そうした人々は、そもそもアプリケーションをダウンロードしたいともまったく思ってないのだ。

そんな使い方も満足にわからないような端末をなぜ好んで買うのかがずっと不思議で、本人たちに聞いても「みんな持っているから」とか「思ったより安かったから」とかあまりに消極的な理由しか出てこないので謎は深まるばかりだったのだが、これは私も「機能」に捉われていたということなのだろう。

使い方もわからないような人が、そもそもどんな「機能」があるかなど知る由もない。彼らはそもそも「機能」など求めていないのだ。すべての携帯電話は彼らにとって機能過剰だから、「機能」の話は等しく意味がなく、単に新しくて刺激的な「経験」をしたいだけなのだろう。

まあ、何を今さらという話もあるだろうし、そもそも「機能」を重視しようが「経験」を重視しようが人の勝手なわけだが、何となくiPhoneを卒業するにあたって総括をしてみたくなったのである。